2015年12月1日火曜日

謎の一時間四十分 

   謎の一時間四十分 


権藤啓二   49 沖縄県警捜査一課刑事

北里隼人   50 同鑑識課検死官

若山博人   41 同検死官助手

畑中栄一   34 会社員

畑中陽子   29 栄一の妻

山口理恵子  29 陽子の友達

刑事三人 

 

○沖縄那覇空港レストラン

   ST 二〇〇五年、五月

   テーブルを挟んで畑中と妻の陽子。

畑中「じゃあ、悪いけど、先に帰るよ」

陽子「仕方ないわね」

   畑中、立ち上がりかかって、

畑中「あ、忘れてた。貧血の薬持って来てたんだ。これ飲むといいよ」

陽子「薬?」

畑中「ああ、貧血によく効く薬だよ」

陽子「そうなの?」

畑中「いま飲んだら?」

陽子「ええ」

   陽子、瓶からカプセルを出して服用。

   陽子の携帯に電話。

陽子、電話に出る

陽子「理恵ちゃん? 着いたの? 良かった。今、風月ってレストラン。そう。じゃ、待ってるね。(畑中に向かって)、理恵子から、今着いたって」

畑中「そうか、じゃあ、二人で沖縄旅行楽しむんだな」

陽子「ええ」

レストランの窓から飛行機の離発着が見える。

レストランに理恵子が入ってきて畑中夫妻のテーブルに来る。

理恵子「ごめんなさい遅れて」

陽子「いえ、こちら主人」

理恵子「山口です」

畑中「畑中です。陽子をよろしくお願いします。私は、急用で東京に帰りますので」

理恵子「そうですってね」

陽子「あなた、もう時間よ」

畑中「じゃ」

 

○首里城

   見物する陽子と理恵子

 

○首里城・喫茶店

   テーブルを挟んで陽子と理恵子

理恵子「陽子、どうしたの。気分悪いの?」

陽子「ええ、ごめんね、身体が痺れるのよ。おなかも……」

   陽子、額の汗をぬぐい、立とうとして嘔吐する。痙攣を起こして呼吸困難。

 

○道路

   パトカーに先導され救急車が走る。

 

○琉球病院・救急室

   理恵子、泣き崩れる。

理恵子「陽子、どうして死んじゃうのよ!」

 

○沖縄県警・鑑識課・検死室

   北里が机上の「死亡診断書」を見つめている。

脇に権藤が立っている。

権藤「死因はなんですか」

北里「それが、実はわからないんです。外傷もないし、胃にも異物はないし。死体があまりにもきれいなのが不思議なんですよ。異常な死に方です」

権藤「異常って、他殺ですか」

北里「いや、何とも言えません。診断書には心筋梗塞と書いておきますが」

 

○沖縄県警・捜査第一課

   権藤が三人の刑事と会議。

刑事1「課長、畑中は妻に一億五千万円も保険をかけてました。それに、妻を亡くしたのはこれで三人目です。前の二人も五千万ずつ保険に入ってました」

刑事2「それから、畑中は陽子さんとは電撃結婚です。高級クラブで会ってから六日目で結婚してます」

刑事3「友達の山口によりますと、死ぬ前に発汗、腹痛、嘔吐、痺れがあったそうです」

権藤「そうか。これは他殺だ」

 

○沖縄県警

   「畑中陽子殺人事件特別捜査本部」という看板。

 

○沖縄県警、鑑識課・研究室

   北里が助手の若山とともに医学書数冊を机に積み、読み漁っている。。

北里「発汗、嘔吐、腹痛、麻痺か。そんな薬品はないな」

若山「ないですね。……先生、有毒植物では?」

北里「そうか、それがあったな」

   北里と若山、書棚から別の医学書を取って読みだす。

若山「ありました。トリカブトです。症状は一致します。ここに」

北里、指摘されたページを読む。

北里「うむ、一致してる、しかし、トリカブトは即効性で服用してから三十分以内に死ぬとある。陽子が死んだのは畑中と別れて一時間四十分後だ」

 

○畑中の家・応接室

   権藤が畑中と話している

畑中「あなた、私を疑ってるんでしょう」

権藤「いや、あまりにも不自然なことが多すぎますので」

畑中「何が不自然ですか」

権藤「畑中さん、あなた、五年間で三人も奥さんを亡くしていますね。全部心筋梗塞で」

畑中「三人は多いと言うんですか。それは、あなたが奥さんと死別してないからですよ。この年で一人暮らしは辛いですよ」

権藤「それから、畑中さん、莫大な保険金をかけていたそうじゃないですか」

畑中「かけてはいけないという法律でもあるのですか。で、私が保険金殺人をするとでも?。だいたい、陽子が死んだとき私は東京にいましたからね」

権藤「ところで、畑中さん、トリカブトという植物知ってますか」

畑中「知ってますよ。よく時代劇などに出てきますね。でも、あれは即効性ですよ」

権藤「よくご存知で」

畑中「時代劇見てれば分かりますよ」

 

○道路

   権藤歩いている。

権藤(独り言)「必ず、尻尾を掴んでやる」

 

○鑑識課・研究室 

   権藤が北里と話している。

権藤「トリカブトの効果を遅らせる方法はないのですか」

北里「ないですね。二重、三重のカプセルに入れてもアコニチンの効力はせいぜい十分遅らせるぐらいで、一時間四十分も遅らせません」

権藤「そうすると、始めから振出しか」

 

○沖縄県警・捜査第一課

   権藤が若手刑事と話している。

刑事1「課長、耳寄りな情報です」

権藤「何か掴んだか」

刑事1「畑中は別宅があって、窓から中を覗くと化学実験室のようで、フラスコとかビーカーが見えました」

権藤「実験室?」

刑事2「毒物の実験しているのでは」

刑事3「それから、畑中は三カ月ぐらい前、大量にフグを買って、別宅に届けさせたそうです」

権藤「フグ?」

 

○鑑識課・研究室

   権藤が北里と話している。

権藤「畑中が大量にフグを買ってたそうです」

北里「フグ?」

権藤「フグの毒を使ったのでは」

北里「フグのテトロドキシンも即効性ですのでね」

権藤「そうですか」

北里「しかし、一度調べてみます」

 

○同・研究室

   北里と若山助手が実験している。

若山「テトロドキシンは、唇や指先に痺れがきて呼吸困難になって死にますから、今回の死に方とは違います」

北里「うむ、じゃあ、なぜフグを買ったんだろう。フグとトリカブトね、フグとトリカ……。そうか、拮抗作用だ!」

若山「互いに効果を薄めあう?」

北里「そう。すぐ実験してみよう」

 

○畑中・別宅・玄関

   権藤以下数名の刑事、別宅の玄関をたたく。畑中が扉を開ける。

畑中「何事ですか」

権藤「捜査令状だ。家宅捜査を行う」

   刑事達、家の中に入って行く。

 

○畑中別宅・実験室

   刑事、実験室の中を捜査し、実験用具、書類、パソコン等を段ボールに詰める。

 

○沖縄県警・科学捜査研室室

   押収した段ボール箱が部屋の隅に山積。研究員達、実験用具類を調べている。

研究員の一人、顕微鏡を覗きながら、

研究員「出ました。テトロドキシンとアコニチンの反応」

 

○畑中宅

   権藤、玄関ベルを押す。

畑中、扉を開ける。

権藤、逮捕状を突きつけ、

権藤「畑中陽子殺人容疑で逮捕する」
 
                         終

2015年11月20日金曜日

古い似顔絵 TVドラマ


     古い似顔絵

    

天野大輝 29(6) 高校教員 

天野重雄 59(37)大輝の父 会社員

草笛律子 52(30)主婦 重雄の前妻

天野彩芽 45(23)重雄の後妻      

草笛翔太    18 大輝の腹違いの弟

山田富美    56 重雄の妹

天野やえ    83 重雄の母

 

 

 

○天野家・居間

   大輝が律子の似顔絵を描いている。

大輝「ちょっと、母さん、動かないでよ」

律子「あ、ごめん、ごめん」

   大輝、描き終わった絵を律子に見せる。

律子「上手ね。この絵、母さんに頂だい」

大輝「いいよ」

 

○天野家・居間

テーブルをはさんで重雄、やえ、律子。

重雄「離婚したけりゃ離婚すればいいよ」

律子「勿論よ、あなたがそんなふしだらな男だとは思ってませんでした」

重雄「ふしだらとは何だ。真面目に付き合ってるんだ」

律子「愛人と? 真面目に?」

重雄「ああ、結婚するつもりだ」

律子「勝手にすればいいわ。大輝は連れてきますからね」

重雄「何言ってるんだ、置いておくのが当然だろう。お前、どうやって育てるんだ」

律子「どうにでも育てられますよ」

やえ「律子さん、重雄が彩芽と付き合ってるのは、もとはといえばあなたがだらしないからよ。大輝は天野家がしっかりそだてます。女手でこの世の中育てられるもんですか」

律子「育ててみせます」

重雄「どうしても連れていくというなら、離婚は取りやめだね」

律子「……」

重雄「さあ、どうするんだ」

律子「……置いていきます」

 

○天野家・玄関・タクシーが停まっている。

   律子、大輝を抱いている。

律子「母さん、しばらく遠くに行くから、こローザ手紙書いてね」

大輝「どこへ行くの。早く帰ってきてね」

   律子を乗せたタクシー発進。

 

○天野家・大輝の部屋

   大輝、手紙を書いている。手紙アップ。

大輝の声「おかさんがどこかにいってから、きょうで三にちたちました はやくかえってきて てがみちょうだい だいき」

 

○天野家・玄関

   重雄、玄関ポストから手紙を取り、律子の手紙を選び出し、ゴミ箱へ。

 

○天野家・居間

   大輝と重雄が話している

大輝「お父さん、今日も母さんから手紙来てなかった?」

重雄「ああ、来てないよ」

大輝「おかしいなあ、もう二週間も来てないよ」

重雄「大輝、実はな、お前、子供だからわからないかもしれないけど、お母さん、別の男の人と暮らしているんだ。お前を捨ててね」

大輝「僕を捨てて?」

重雄「だから手紙書かないんだよ」

大輝「ほんと?」

重雄「そう、もうお母さんに手紙書かない方がいいよ。返事を書いてこないんだから」

 

○天野家・居間

   ST 半年後

   重雄、彩芽、大輝、話している。

重雄「大輝、こちら、今日から新しいおかあさんだ」

大輝「……」

彩芽「大輝ちゃん、よろしくね。はいこれ、プレゼントよ」

   彩芽、紙袋を渡す。大輝、開ける

   モデルガンが入っている。

大輝「わあー、すごい、開けていい?」

   大輝、ガンを取り出し、彩芽と重雄を撃つ。

 

天野家・食卓・朝

   大輝、重雄、彩芽、やえ、朝食中

大輝「なにこれ、この味噌汁、おかしいよ」

重雄「なにが?」

大輝「母さんの味噌汁と違う」

重雄「大輝、もうお母さんのこと言わないの、お前を捨てたんだから」

大輝「だって、この味噌汁」

重雄「そんなこと言わないの、お母さん一生懸命作ったんだから」

大輝「このおばさん、僕のお母さんじゃない!」

   大輝、食卓を離れる。

 

○大輝の部屋

   大輝、手紙を書いている。

大輝の声「お母さん、さいきんへんなおばさんがうちにきたよ みそしるまずいし はやくかえってきてよ てがみかいてよ……」

   

○天野家・食卓

   ST 十年後

   大輝、重雄、やえ、夕食を食べている。

大輝「今日も、彩芽さん、遅くなるの? もうコンビニ弁当なんて飽きたよ」

やえ「わたしが料理できなくてごめんよ。年で、手が思うように動かないんだよ。でも律子は今頃どうしてるかしら」

大輝「ばあちゃん、やめてよ、あんな僕を捨てた女の話は」

やえ「……それにしても、彩芽は変わったね」

重雄「大輝と合わないから、家にいたくないんだ」

大輝「大体、父さん、あんな女に騙されて、僕が家を出るよ。名古屋の高校へ行くよ」

やえ「大輝、家にいておくれよ、おまえがいないと、寂しいよ」

大輝「だって、いつも彩芽さんと喧嘩だよ、彩芽、すぐ実家に帰ってしまって、お父さんが呼び戻して。だから家出るよ」

やえ「そうねえ」

 

○開陽中高等学校・寮

   ST 3年後

   大輝、寮の個室で勉強している。

 

○名古屋中央高校

   ST 十年後

   大輝が教壇で英語の教鞭をとっている。

大輝「この関係代名詞の先行詞は……」

 

○同高校・休憩室

   大輝、同僚と話している

同僚「この夏休み、先生、予定は?」

大輝「東京で開かれる英語教員研修に出ようと思ってますが」

 

○大輝の住むマンション・部屋・夕刻

   大輝、郵便物を見ている。草笛翔太という差出人の封筒あり。

翔太の声「私は草笛翔太という者です。律子の息子で、あなたの腹違いの弟になります。驚かれたでしょうが、母があなたに会いたがっています。母は癌で余命一、二か月です。ぜひ会ってやってください。病院は虎の門病院、605号室です。」

大輝独り言「なにお今更、俺を捨てておいて」

  

○東京ガーデンパレスホテル・大輝の部屋

   大輝に携帯電話がかかる

富美子「もしもし、私、富美子だけど、今東京に来てるんだって?」

大輝「えっ、おばさん? タイから戻ったの?」

富美子「ええ、テロがあってね、今、八王子に住んでるの」

大輝「よく電話分ったね」

富美子「お父さんに聞いたんよ。先生やってるって? 立派ね、一度会わない? 二十年ぶりかしら」

 

○喫茶店・夕方

   大輝と富美子話している

富美子「ええっ! 大ちゃん知らなかったの? 律子さん、大ちゃんを捨ててなんかいないのよ。兄さんに愛人ができてね」

大輝「愛人? 彩芽さん?」

富美子「そう、だから離婚したの」

大輝「僕を捨てて?」

富美子「ちがうのよ、兄が大ちゃんを置いていかなかったら離婚しないって言ったのよ。だから、律子さん泣く泣く大ちゃんと別れたのよ」

大輝「でも、手紙書いても返事が来なかった」

富美子「兄が全部処分したのよ」

大輝「そんな」

富美子「だから、病院に行ってあげなさい」

 

○虎の門病院・六〇五号室

   大輝が部屋に入ると律子が酸素マスクをつけている。翔太が付き添う。

大輝「天野大輝です」

翔太「兄さん! よく来てくれました。母さん、大輝さんだよ」

   律子、目を見開き、酸素マスクから何か言っている。律子、茶棚を指で示す。翔太、茶棚の引き出しを開ける。似顔絵と手紙の束がある。律子、うなずいて大輝を指さす。翔太、大輝に絵と手紙を渡す。大輝受け取る。一つの封筒から便箋を出す。便箋にところどころ水滴のような跡。大輝、涙ぐむ。大輝、ベッドに行く。

大輝「お母さん! ごめん! ちっとも知らなかったんだ」

  律子、涙顔。酸素マスクを外す。

律子「よく来てくれたね……大ちゃん……わたしの、大ちゃん……」

   大輝、律子の手を握る。律子、息を引き取る。