2013年7月29日月曜日

赤飯


赤飯  


 

登場人物

 安藤宏  無職  (六五歳)

 安藤郁代 宏の妻 (六十歳)

 遠藤 遠藤内科医院院長(六十七歳)

 一柳 名大病院循環器系医師(四十歳)

 

○安藤家・居間・夜

   宏と郁代がテレビを見ている。

   テレビ画面では、老年夫婦が赤飯を食べている

   宏、テレビを見ながら

宏「俺も赤飯食べたいな」

郁代「何言ってるのよ、赤飯はおめでたい時

に食べるのよ」

宏「それもそうだが……」

 

○遠藤内科医院・診察室

   遠藤、コンピューター画面で心電図のグラフを見ながら

遠藤「うむ、こりゃひどい。心拍が相当乱れて

ますな。こりゃ危ないですよ。すぐ手術をし

なきゃ」

宏「えっ、手術ですか」

遠藤「ええ、でも内ではできませんので、名

大病院か日赤病院に行って下さい」

宏「えっ、そんなに悪いんですか。ここまで地

下鉄で来れたんですが」

遠藤「議論している場合じゃないですよ。な

 んなら、救急車を呼びましょうか」

宏「えっ、明日の朝ではダメですか。女房に

話して、それで、あのぅ、日赤に行きます」

遠藤「じゃあ、紹介状を書きますから、朝一番

 に行って下さいよ」

 

○宏の自宅・居間・夜

宏と郁代がお茶を飲んでいる

郁代「そんなに悪いの?」

宏「うん、遠藤病院では見れないそうだ」

郁代「それで、その手術って、大丈夫? 失敗

したらどうするのよ」

宏「それはないよ」

郁代「わかるもんですか。それより、宏一に言

った方がいいかしら」

宏「何を」

郁代「お父さんが心臓手術だって」

宏「お前、心配しすぎだよ」

 

○宏の自宅・寝室・夜

置時計が午前2時を示している。

宏、天井を見ている。隣で郁代が眠っている。

○葬式場面(イメージ)

宏の遺体が入っている棺の周りで遺族が

泣いている。

 

○宏の自宅・寝室・夜

宏、寝返りをうつ

  

○日赤病院・循環器系診察室

  一柳、心電図を見ながら

一柳「ああ、これなら、手術しなくてもいいです。薬で抑えられますから」

宏「ええっ、手術しなくていいんですか」

一柳「ええ、しなくていいですよ」

宏「ホントですか。ああ良かった。死ぬかと思ったんですよ」

 

○日赤病院・待合室

宏、携帯電話を郁代にかけている

宏「だから、本当に手術しなくていいんだよ」

郁代「ホントなのね、ホントなのね」

宏「だから、ホントだって」

 

○宏の自宅・夕方

   宏、居間でテレビを見ている

郁代「あなた、ご飯よ」

宏「ああ、いま行くよ」

宏、食卓に近づく。

郁代、食卓に座っている。

食卓の上には 茶碗に山盛りになった赤

飯が置いてある。