2018年12月27日木曜日

  今月今夜   

「一月の十七日、宮さん、善く覚えてお置き。来年の今月今夜は、貫一は何処でこの月を見るのだか! 再来年の今月今夜、十年後の今月今夜、一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死んでも僕は忘れんよ! 可いか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になつたならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから、月が……月が……曇つたらば、宮さん、貫一は何処かでお前を恨んで、今夜のやうに泣いてゐると思つてくれ」
 
 
ご存知、尾崎紅葉の「金色夜叉」の見せ場です。間貫一(はざま かんいち)の許婚であった鴫沢宮(しぎさわみや)は結婚を間近にして、富豪の富山唯継(とみやま ただつぐ)のところへ嫁ぎます。これに激怒した貫一は熱海でお宮に恨み言を言うところです
 実は、この小説には酷似した種本があります。漣山神(さざなみさんじん)が著した「女より女々し」という小説です。荒筋を書きますのでよろしければ読んで下さい。
 明治四(一八七二)年、主人公の大磯波男は美男子で二十四歳。街を歩けば、若い娘も年増のおばさんも波男をうっとり眺めます。
波男は大学卒業後、横浜毎日新聞社に入社しました。入社すると女性社員は、そわそわして仕事が手につきません。仕事そっちのけで波男を見ているのです。波男も自分の美貌にはいささか自負があり、容姿で寄ってくる女性には目もくれません。
ある日、横浜の郊外で火事がありました。波男が取材を終えて田舎道を歩いていると、消防ポンプ車が後ろから走ってきました。波男は道端に寄った途端、道からずり落ちて肥溜(こえだ)めに下半身がずぼっと落ち込んだのです。ポンプ車に乗っていた消防士は波男を見て大笑い波男は怒れてきました。
――畜生! 道をよけてやったのに! 
雨が降ってきて、ズボンについた糞尿はどうやらきれいに流れ落ちました。
社に帰ってきた波男を見て、女性社員は、いつものように、争って社員用の湯飲みに茶を入れて波男のところに持って行こうとしました。が、臭くて近づくことができません。鼻を掴んで自分の席に戻りました。
編集長も「大磯君、どうしたんだ。肥溜めにでも落ちたのか」と訊きました。波男は「はあ」と答えました。社員がくすくす笑っています。

誰もお茶を持って来ないので、波男は自分でお茶を淹れようと思っていますと、都子(みやこ)という社員がお茶を持ってきました。

「お疲れ様でした」
「ありがとう」
波男は都子を見ました。こんな美人が社にいたのか。いつも女性に囲まれていたので、誰が誰だか分かりませんでした。都子は臭いのを全く意に介せず、お茶を持ってきたのです。これぞ外見にとらわれない本物の女性です。波男は都子が気に入りました。都子も波男のことを好いていました。
 波男は都子の虜になり、恋文を書きました。都子も恋文を書いてキスマークをつけました。二人は熱烈な相思相愛の仲になりました。
そして、波男が都子に求婚します。都子は「わたしのような不束者(ふつつかもの)でよろしければ」と言って、求婚を受け入れます。
 ところが、あと一週間で挙式という時になって、都子は波男を袖にしました。
「波男さん、ご免なさい……。わたし、博文堂の社長にプロポーズされたの」
都子は迷った挙句、愛より社会的プレステージを選んだのです。社長は五十六歳。出版界の大物で、貴族院議員で、三段腹で、禿げ頭です。波男は怒り狂いました。
「畜生! お前はそういう女だったのか」
 悔し涙がこみ上げてきました。涙がこぼれないように夜空を見上げると満月です。
「都子、あの月を見よ。来年の今月今夜、あの月を俺の悔し涙で曇らせてみせる。今日という日を忘れるな。十二月四日だ。来年の十二月四日、必ず月を曇らせてみせる。俺の悔しさがいかに深いか、俺がいかに傷ついたか。その証として、必ず月を曇らせてみせる。十二月四日を忘れるな」
 さて、一年経って早や「十二月四日」の夜となりました。月が雲に覆われています。
そら見ろ! 俺が言った通りだ。都子、分かったか。俺の嘆きが。俺の恨みが。俺の悔しさが!
 波男はふと、そばにあった新聞を取り上げました。日付を見ると、一月二日となっています。
「一月二日?」
 波男は年号を見ました。明治六年となっています。はて、明治五年のはずなのに……。
狐につままれたようになって新聞をめくると、「昨日、明治五年十二月三日は明治六年一月一日に暦が変更になりました。混乱しないように留意して下さい」と書いてある。
 明治政府は昨日、旧暦を新暦に替えたのでした。               
 
                                                      了
                   

2016年11月21日月曜日

阿吽 (シナリオ)



阿形像(快慶) 吽形像(運慶)
二体とも像高 八・四メートル
阿吽(あうん)

 


運慶  53 惣大仏師(吽形像担当)

快慶  55 大仏師(阿形像担当)

重源  82 高僧(東大寺再建勧進職)

寄木師 57 (木材寄せ合わせ専門職)

大蜥蜴

小仏師、番匠(大工)数名

 

 

〇奈良、東大寺南大門

   ST 建仁三年(一二〇三)八月

運慶、快慶、大仏師、小仏師、寄木師、番匠等が、横たわっていた二体の仁王像を、南大門に滑車で立ちあげている。

作業を見ている重源。

作業が終わると、二体は南大門の正面(南)を向いて立っている。

重源「おお、見事な出来じゃ。よく造ってくれました。まるで仁王様が絵図から飛び出たようじゃの」

運慶「お褒めにあずかり、恐縮いたします」

 

〇仏所(工房)・運慶の部屋・夜中

   眠っている運慶がうなされている。

   画面がぼやける。

 

〇森・夕暮れ(イメージ始まり) 

   長さ三メートルある蜥蜴が前方に寝ている赤子の方に近づいていく。

運慶(声)「俺はいつの間にか蜥蜴になって、赤子に近づいていた」

蜥蜴「旨そうな赤子だ」

   あと赤子まで三メートルになったとき、一条の光が蜥蜴の左上と右上から蜥蜴を照射する。

蜥蜴(運慶の声)「あー、く、苦しい!」

   (イメージ終り)

 

〇運慶の部屋

   運慶が寝床からが跳ね起きる。

運慶「夢か」

 

〇春日大社・早朝

   本殿に続く石段を上っている運慶。

運慶M「いやな夢だった」

   運慶、あと五段で本殿という段で立ち止まり、本殿を見上げる。

本殿前、左右の台座に阿形と吽形の狛犬が設置してある。運慶、石段から二つの狛犬を見上げる。

   狛犬の睨んだ眼、アップ

運慶「あっ!」

   運慶、速足で階段を駆け下りる。

 

〇南大門

   仁王像仕上げ中の快慶、小仏師達。

   運慶が門に走ってきて、

運慶「快慶殿、待たれよ。皆も聞いてくれ」

   皆、運慶の周りに集まる。

運慶「今から仁王像二体を向かい合せにする」

   小仏師の間でどよめきが起こる

快慶「正面向きでは、何か不都合でも?」

運慶「いや、夢のお告げがあった」

快慶「夢のお告げ? 馬鹿げたことを。運慶殿は夢のお告げを信じるとでも?」

運慶「昨夜恐ろしい夢を見たのだ。私が蜥蜴になって」

   XXX

   ・蜥蜴が赤子に近づく

・左右から光が射す

XXX

運慶(声)「(フラッシュに重ねて)赤子を食べようとして近づくと、左右から光が射し、苦しくなって、そこで目が覚めたのだ」

快慶「それと仁王像の向きと、どういう関係があるのです?」

運慶「まあ、聞いてくれ。今朝、春日神社にお参りして本殿まで階段を上がっていくと、

   XXX

   ・運慶、左右の狛犬を見つめる

   ・狛犬が左右から運慶を睨んでいる

   XXX

運慶「阿吽の狛犬が左右から私を睨んでいたのだ。そこで分かったのだが、夢の赤子は仏陀で、蜥蜴は仏敵だったのだ。狛犬の眼光が左右から光って蜥蜴を退散させたという訳だ。今、仁王像は正面を向いて遠くを睨んでいるが、それでは仁王像の眼光は仏敵を威嚇しない。それより、像を向い合せにして、門を通る仏敵を左右から同時に睨みつければ、その威嚇は何倍にもなる」

快慶「それは理屈というもの。遠くから近づいてくる仏敵を、仁王像が門から睨みつければ、威嚇になる」

運慶「しかし、仏敵は遠くから仁王を見ることになるから、目が仁王の眼光に慣れてしまい、威嚇にならない」

XXX

遠くから仁王像に近づく閻魔

それを正面から睨みつけている仁王像。

XXX

運慶「むしろ、仏敵が門を入るときに、左右から仁王の眼光にさらされれば、驚いて恐れおののくはずだ」

快慶「それは子供だましだ。大体、仁王像の期日は四日後ですぞ。向きを変えるなど、大仕事になる。正面を睨んでいた目線を、真下に向けるのは簡単にできる訳がない」

   運慶と快慶を取り巻く小仏師や寄木師、番匠達

運慶「それは分かっておる。顔面を下向きにしなければならないということだろう」

快慶「顔だけではない。額も、眉も、胴体も全て変えなければならない。そんな大作業、四五日では到底できない」

運慶「いや、出来ないことはない」

快慶「それは無理だ。私の阿形像は、ほぼ出来上がっている。それを今さら手直しなどしたら均衡のとれた造形美が台無しになる」

運慶「しかし、考えても見よ。向き合わせれば百年、二百年後の人は、うまく考えて造ってあると感心することになる」

快慶「それは勿論のこと。私は数百年先まで残る仁王像を彫っているつもりだ」

   運慶は快慶の目を見て、吽形像を見あげる。しばし沈黙。

   寄木師が運慶に近づいて、

寄木師「差し出がましいようですが、意見を言ってもよろしゅうございますか」

運慶「ああ、何なりと申せ」

寄木師「では。ただ今お聞きしておりましたが、運慶様も快慶様もどちらのご意見も正しいかと存じます。正面を向いて遠くから近づく仏敵を威嚇するのも、向い合せにして仏敵を挟み撃ちで脅すのも、どちらも効果があります。ですから私のようなものが軍配を上げることはできませんが、木材のことを生業にしている寄木師として申しあげますと向い合せの方が良いかと存じます」

快慶「その訳は?」

寄木師「はい、木造の建物は南側から早く傷んできます。南から強い光が当たり、風雨にさらされますと、木材の朽ちるのが早くなります」

運慶「何か、そのような建物があるのか」

寄木師「はい、光明寺の仁王像は門の北側に立てられております」

   XXX

光明寺の仁王像

XXX

快慶「ああ、見たことがある」

寄木師「また、法隆寺の阿吽の二像は南向きに造立してありますので、劣化が激しく、塑土(粘土)で塗り重ねてございます」

   XXX

   法隆寺の阿吽の二像

   XXX

運慶「向い合せにすれば何百年も持つのか」

寄木師「はい、向き合わせて、南側を板壁にして日光や雨風を防げば千年でも持ちます」

運慶「なに、千年も。快慶殿、千年も残る仁王像ですぞ」

快慶「うむ、丹精込めて造った仁王像だ。向きを変えたくない」

寄木師「今のままでは百年で朽ち始めます」

快慶「そうか。うむ……。ならば致し方ない」

運慶「変えてくれるか」

快慶「ただし、阿形像は完璧な形に造ってある。像を手直ししないという条件なら変えてもよろしいが」

運慶「ならば、その条件で」

   阿形像全景。

吽形像全景。

 

〇南大門

   ST 三日後

梯子の上で吽形像の顔、眉、額、瞼、胸、下腹など手直ししている運慶。

阿形像は小仏師達が木肌を磨いている。

午後三時ぐらいの太陽の傾き。

運慶、梯子を降りて吽形像を見上げている。

運慶M「快慶、直しに来てくれないかな。もうすぐ日が暮れてしまう」

   XXX

   南大門全景。大仏殿全景

   鳥が飛んでいる。寺の鐘の音

   XXX

   快慶が南大門に急ぎ足で来る。

快慶「運慶殿、考えましたが、目線と顎だけ直そうと思って来ました。阿吽の目線が、ちぐはぐでは後世の人が笑いますからな」

運慶「おお、よく来てくれました」   

快慶は梯子を上って、(のみ)で阿形像の目元を穿ち始める。

手直しに専念する快慶

 

〇南大門・日没寸前

   運慶と快慶は、南大門の入口に立ち、夕日に照らされている阿吽の仁王像を見上げている。

運慶「やっと出来ましたな」

快慶「運慶殿。手直しをしないなどと、意地を張って申し訳ないことをしました」

運慶「いやいや、快慶殿は名仏師だから、必ず手直しに来てくれると信じてましたよ」

快慶「恐れ入りました」

   二人は目を合わせてにやりと笑う。

                  終

  

 

 

2016年11月6日日曜日

郷に入っては


郷に入っては

            
 

深見純太 47  高校教師(現代社会)

深見順子 45  純太の妻

ムハマド 50  エジプト大学教授(日本文化学)

車掌

風紀憲兵1  37  

風紀憲兵2  30

電車乗客

 

 

〇電車内

深見が車窓から景色を眺めている。隣の席にムハマド。車窓からモスクが点在する町の景色。周りはアラブ人。

ムハマド「失礼ですが、あなた日本人ですか」

深見「はあ、でも、どうして日本人と?」

ムハ「その本、日本語ですから」

   深見の膝に『アラブ一人旅』という本が置いてある。

深見「あなた、日本語お上手ですね」

ムハ「ええ、日本に3年いました」

深見「日本のどちらに」

ムハ「京都と奈良です」

深見「お寺に興味あるんですか」

ムハ「はあ、実は私、エジプト大学で日本文化を教えているんです」

深見「そうですか、じゃ、日本のことは私より詳しいでしょうね」

ムハ「ご冗談を。で、あなた、この電車初めてでしょう」

深見「ええ」

ムハ「やはり。初めて当地に来る旅行客は面食らうんですが」

深見「面食らう?」

ムハ「はあ、次の駅からは文化圏が変わりますので髭をつけないと降ろされますよ」

深見「ええっ、どうしてですか」

ムハ「郷に入っては郷に従えって言うでしょ」

深見「でも髭を生やすって急に生えませんよ」

ムハ「心配ないです。黒のマジックで描いてあげますから」

深見「それで通るんですか」

ムハ「この電車はそう厳しくないんです」 

深見「そうですか」

通路反対側の座席の男が付け髭をつけている

深見「じゃ、お願いします」

   ムハマド、深見の顔に髭を描く。

   それを見ている乗客。

ムハ「できました」

深見「ありがとう」

   車窓の眺め、荒涼とした土地。

   車掌が巡回してくる。深見の前で止まる。アラビア語で深見に言う。

車掌「ナンタラカンタラ」

ムハ「ナンタラカンタラ」

車掌「ナンタラ」

ムハ「カンタラ」

   車掌は不満な顔をして歩き去る。

深見「ああよかった。助かりました」

ムハ「ところで、あなた、どちらまで行かれるんですか」

深見「終点のバスラーク駅までです。そこでハイダル鉄道に乗り換えて、ナマニヤル空港駅まで行くつもりです」

ムハ「それは大変だ。あなた殺されるかもしれませんよ」

深見「ええっ」

ムハ「バスラーク駅に着いたら売店で赤と青と黄色の帽子を買ってください。電車が違う文化圏に入ると、帽子の色が指示されます。指示された帽子をかぶってください。さもないと風紀憲兵に殺されますよ」

深見「風紀憲兵?」

ムハ「乗客が正しい帽子をかぶっているか検査する憲兵です」

深見「まさか。冗談でしょう」

ムハ「いいえ、本当です」

深見「じゃあ、買います。赤、青、黄ですね」

ムハ「そうです」

   車内の乗客の様子や車窓の景色

 

〇バスラーク駅プラットホーム

   深見とムハマド、下車。

ムハ「じゃ、さようなら、気を付けて」

深見「はい。ありがとうございました」

   ムハマド、立ち去る。

   深見、売店に行き、三色の帽子を買う。

 

〇ハイダル鉄道プラットホーム

   電車がホームに入り、深見、乗り込む。

 

〇車内

   深見が座席に座り、鞄を荷棚に載せて、座る。乗客は皆赤い帽子をかぶっている。深見も赤い帽子をかぶる。

通路の最前列に風紀憲兵1が赤い帽子をかぶって赤い旗を持ち上げている。最後列には銃を持った憲兵2。

隣りの席に中年のアラブ人が赤い帽子をかぶって新聞を読んでいる。

電車、発車。

車窓の景色。乗客の様子。

憲兵1がピーっと笛を鳴らして、赤帽をぬいで青い帽子をかぶり、青い旗を上げる。

深見(独り言)「青い帽子の文化圏だ」

乗客は一斉に青帽をかぶる。深見も青帽をかぶろうとするが、かぶっていた赤帽と、青と黄色の帽子を全部を床に落としてしまう。あわてて、黄色の帽子をかぶる。憲兵を見て、青い帽子にかぶりなおす。

憲兵1が深見のところに来て髑髏マークのカードを渡す。

深見「これ、何ですか」

憲兵1「ナンタラカンタラ」

   憲兵1は元の位置に戻る。

深見(独り言)「これって、イエローカード? 青い帽子をかぶるのに手間どったから?」

   車窓と乗客の景色。

   深見、赤と黄色の帽子を持って立つ。憲兵1の脇を通り、連結部の方に行く。

   

〇車内トイレ

   小便器の前に立つ深見。後ろの小窓から憲兵1が深見を監視している。

深見(独り言)「緊張して出ないよ」

   深見、トイレから出る。

 

〇車内

   深見、自分の座席に戻る。隣の男、赤い帽子の上に黄色の帽子を重ねて膝の上に置いて眠っている。

深見(独り言)「そうか、今度は黄色だ」

   深見も赤帽の上に黄色の帽子を重ねて膝の上に置く。

   車内の様子。車窓の景色。

   電車がトンネルに入り、真っ暗になる。

   電車の走る音。深見や乗客の黒い影。

   「ぴー」と笛の音。

憲兵1の声「ナンタラカンタラ!」

深見(独り言)「帽子を変えるんだ。旗の色が見えないが、今度は黄色だ」

   深見の黒い影が帽子をかぶりなおす。

   トンネルが続く。暗闇。電車の音。

   突然、電気がつく。周りは皆赤い帽子をかぶっている。隣の男も。

深見「しまった!」

   憲兵達が走って来る。深見を席から引きずり出す。

深見「間違えただけです! 当地の文化は尊

重しています!」

憲兵達は深見を隣の車両の部屋に連行。

深見、椅子に縛られ、憲兵2が銃口を向ける。

憲兵2「ナンタラカンタラ!」

深見「チンプンカンプンだ。しかし、どうして文化が違えば、その文化に従わなければならないんだ! 文化は人間が作ったんだ。その文化に人間が縛られるのか! 人間の画一化だ!」

憲兵1「ナンタラカンタラ!」

深見「フランス政府はアラブ人の女性がブルキニ水着を着用するのを禁じたが、

XXX

ブルキニ姿の女性の画像

XXX

裸でなければ、どんな水着を着たっていいじゃないか。俺は文化の画一化に反対だ!」

憲兵2「ナンタラ! カンタラ!」

   憲兵1が深見に目隠しをする。憲兵2が引き金に指を当てる。

車内放送「ナマニヤル空港駅、ナマニヤル空港駅」

   憲兵は黄色い帽子をかぶり、目隠しを外す。

憲兵1「ナンタラカンタラ」

   憲兵は深見を釈放する。

 

〇ナマニアル空港駅

   深見、下車。皆、黄色の帽子をかぶっている。深見もかぶる。

 

〇ナマニヤル空港  

   深見、飛行機に乗る。飛行機、離陸。

 

〇羽田空港

   飛行機、着陸。

 

〇羽田空港到着ロビー

   深見、待っていた妻順子に会う。

順子「お帰りなさい。どうだった?」

深見「大変だったよ。日本は自由でいいなぁ。髭を生やしたければ生やせばいい。帽子もかぶりたければかぶればいい。豚でも牛でも何を食べても、何を着てもいい。第一、文化の画一化がないから、いい国だよ」

順子「何かひどいことがあったのね」

深見「そう。殺されかけたよ」

 

〇羽田空港国際線ターミナル駅

   深見夫妻、電車に乗る

 

〇車内

   深見、座席に座る。目の前の八人掛けの座席に座っている八人全員がスマートホンを見つめている。

                 終