2016年2月16日火曜日

 1460パーセント



 
山里邦彦 55 タクシー運転手、駐車場

管理員、ホームレス等

内海健治 50 弁護士

金丸利男 37 闇金融業

財津 渉 41 闇金融業

西尾 進 58 タクシー営業所所長

人事課採用担当等

 

 

〇タクシー営業所

   山里が所長の西尾に呼ばれる。

西尾「山田さん、あなた明日から来なくていいです」

山田「えっ」

山田「済みません。今後注意しますので、なんとか……」

西尾「この前もそう言ったじゃないですか。あのとき、今度事故を起こしたら、即刻辞めてもらいますといいましたね」

山田「はあ」

 

〇A会社・人事課・応接室

   山田が面接を受けている。

渡辺「前に勤められていたタクシー会社は何故辞められたのですか」

山田「はあ、あの、一身上の都合で」

渡辺「と、いいますと?」

山田「はあ、あの、体調を崩しまして……」

渡辺「わかりました。では、面接はこれで終わります。結果の通知を近日中に出します」

 

〇B会社・人事課・面接室

採用担当「もうご病気は回復したのですか」

山田「すっかり、治りました。一生懸命働きます」

 

   XXX

   面接風景3つぐらいをオーバーラップ

   XXX

 

〇アパート・山田の部屋(1DK)

   山田、不採用通知の文面を読む(アップ)

山田「畜生! こいつもか。全部ダメだ」

  

〇山田の部屋

   ST 二ヶ月後

   山田、貯金通帳を見る。残金2439円(アップ)

 

〇富士信用ファイナンス店内

   山田と金子、テーブルを挟んで着席。

金子「お客さん、一応、審査のため、ご住所、電話番号を教えてください。それから、初回から50万はお貸しできません。まずは5万円からお貸しします。で、ちゃんと期限までにお返しくだされば、50万でも100万でも低金利でお貸ししますよ」

山田「じゃあ、5万円借りますが、利息は?」

金子「私どもはテンサンです」

山田「テンサン?」

金子「はあ、10日で3割の利息です」

山田「10日で一万五千円ですね」

金子「初回は利子を差し引いて3万五千円のみをお貸しします」

 

〇道路

   山田、歩いている。

山田(独り言)「三万五千ではやっていけない」

 

〇三菱第一信用店内

   山田と銭谷が話している。

銭谷「初回は、三万五千円のみお貸しします。一〇日経ったら、返済お願いしますよ」

山田「それは勿論」

 

〇山田の部屋

   山田が手紙を読んでいる。

山田「やった! 採用だ」

 

〇住吉ビル駐車場・出入口

   山田が車の入庫・出庫のチェック。

 

〇富士信用ファイナンス店内

   山田と金子テーブルをはさんで着席

山田「あと一〇日待っていただけませんか。働き口が見つかったので」

金子「そうですか。よかったですね。じゃあ、あと一〇日待ちましょう」

 

〇三菱第一信用店内

   山田と銭谷が話している。

銭谷「わかりました。あと十日待ちましょう」

 

〇住吉ビル駐車場・出入口

   山田が車の入庫・出庫のチェック。

 

〇富士信用ファイナンス店内   

山田「申し訳ないですが、今日は返金できませんので、なんとか……」

金子「そうですか、お困りのようですね。じゃあ、利子の1万五千円だけお返しいただけば、元金は引き続きお貸ししますよ」

山田「そうですか」

金子「お宅を信用して、一カ月お貸しします」

山田「助かります」

 

〇三菱第一信用店内

   山田が銭谷と話している。

銭谷「では、利子だけ返済していただければ引き続き5万円は、そうですね、三十日間お貸ししますよ」

 

〇富士信用ファイナンス店内

   ST 一か月後

   山田と金子テーブルをはさんで着席

山田「お世話になりました。元利合計六万五千円、返金します」

金子「お客さん、冗談はやめてください。三十日経っているから八万四千五百円ですよ」

山田「ええっ」

金子「十日目の利子は1万5千円。二十日目は1万9千5百円。三十日目で二万五千三百五十円で、合計八万四千五百円ですよ」

 

〇三菱第一信用店内

   山田が銭谷と話している。

山田「利子の分だけですが、二万五千三百五十円です」

銭谷「三〇日間の利子は三万四千五百円だよ」

 

〇山田の部屋・午前5時ごろ

   ST 十日後

   電話が鳴って山田が出る。

金子「お前、借金踏み倒すつもりか! 心臓えぐるぞ、くそじじい! 今日中に耳をそろえて返しに来い! 馬鹿野郎!」

 

〇山田の部屋・午前5時20分ごろ

銭谷「おう、貴様返すつもりあるんか。血管ぶち切るから、覚悟しとれ!」

   XXX。

   ・山田の職場にも何度かヤクザ調の督促電話。

   ・山田のアパートの玄関に「泥棒!」

   「死ね!」などの貼り紙。

   XXX

 

〇山田のアパート・玄関・真夜中

   玄関から荷物を持った山田がアパートを出る。

 

〇新宿中央公園・早朝

   ベンチに山田。周りにホームレス数人。

 

〇同公園・夕方

   内海がホームレス達に声をかけている。

内海「私、内海と申します。闇金融などでお困りでしたら、ここにお電話ください」

   内海、名刺を山田にも渡す。

   

〇内海弁護士事務所

   内海と山田、テーブルを挟んで

内海「借金したのは5社ですか。総額は?」

山田「150万円です」

内海「利息は?」

山田「2190万円です」

内海「それじゃ利率は……。1460パーセントだ。こんな金利、違法ですよ。支払う必要ないです」

山田「そうですか」

内海「各社に『受任通知』を出しますから、今後は一切、私があなたの債務代理人になります。安心してください」

 

〇富士信用ファイナンス店内

   内海と金子が話している

内海「私は山田さんの債務代理人ですから、 今後は私の方に請求してください」

金子「お前が払うちゅうのか」

内海「いえ。お宅の利率は法律上、高すぎますよ」

金子「山田とは納得済みだ」

内海「大体、あなたの店、貸金融業登録してますか」

金子「ああ、してるよ」

   金子、登録番号書類を見せる。

内海「これは、調べましたが、偽の番号ですね。出るとこに出ましょうか。出資法違反は1千万円以下の罰金ですよ」

金子「な、なんだと。じゃ元金だけでも返してもらおう」

金子「いや、違法行為をしている業者は貸付金を取り立てることは出来ません」

金子「なんだと、きさま、夜道に注意しろよ」

   金子、ナイフをチラつかせる。

内海「あなたこそ、注意なさってください」

   内海、手錠をはめるジェスチャをする。

 

〇道路

「アオキ食品販売」と書かれた車が走っている。青空。運転席に山田。 
ST 総額150万円の借金は利子を含めて2万円の和解金で解決した。また弁護士費用は一社につき2万円で、山田は月々五千円ずつ返済している。

2016年2月6日土曜日

捨てられた答案 ドラマ脚本


捨てられた答案

 

 

川口真治 26 北川高校 英語教師

鬼頭源吾 60 同    物理教師

鬼頭花代 57 鬼頭の妻

小林順一 55 北川高校 教頭

伊藤浩二 53 教務部長

五島光一 49 総務部長

森山 勝 50 校務員

秀    17 高2生徒

誠    17 高2生徒

綾    17 高2生徒

 

北川高等学校 教室

   生徒、受験中。鬼頭が試験監督。

黒板に「平成二十年七月九日(金)」

   チャイムが鳴る。

鬼頭「止め」

   最後列の生徒が答案を順に前に集める。鬼頭、枚数を数える。

 

○職員室

   鬼頭、職員室に入る。数人の先生、入り口近くの机で答案を綴じている。鬼頭は答案の数を二回数え、束を綴じる。そばで、川口が見ている。

川口「先生、答案、二回も数えるんですか」

鬼頭「ああ、万が一ってことがあるからね」

川口「わたしなんか、教室で一回だけです」

鬼頭「三回数えないと、気持ち悪くてね」

 

○小林宅・夜

   置時計、午後九時。

電話が鳴って、小林が受話器を取る。

小林「はい、小林です」

花代「あ、先生。わたし鬼頭の妻です。いつも主人がお世話になっています。あの、今日は職員会議が長かったのですか。実は、まだ主人が帰って来てないのですが」

小林「いえ、今日は、会議はなかったですが」

花代「そうですか。どうしたんでしょう。いつも七時頃帰ってくるのに」

 

○職員室・朝

   壁時計、八時十五分。黒板に「十二月十四日(水)」の日付。電話が鳴り、小林が出る。

小林「北川高等学校です」

花代「わたし、鬼頭ですが、主人、出勤しておりますか」

小林「鬼頭さん? 小林です。きのう帰られなかったんですか」

花代「はい」

小林「ええっ、そうですか。朝礼で訊いてみます。何か分かりましたら連絡します」

   小林は黒板の欠勤欄に「鬼頭」と書く。

   教員、授業の準備などしている。

小林「職員朝礼を始めます」

   教員全員立ち上がる。

伊藤「教務からですが、定期考査の点数の打ち込みは十六日までです」

五島「総務ですが、ダストシュートの使用は今月末までです。今後のごみ扱いについては追って連絡します」

小林「他に連絡ありませんか。なければ最後に。鬼頭先生が昨晩から行方不明のようです。どなたか心当たりの方はいませんか」

   

○教室

   昼休み風景。

チャイムが鳴る。

   

○教室

   川口、答案を返し、解説に入る。

   窓から校庭の体育の授業風景など。 

川口「では、採点間違いのある人」

   生徒四、五人教卓へ来る。

誠 「先生、十点違います」

川口「すまん、すまん」

   川口、答案を訂正して、閻魔帳を広げ、驚いて立ち上がる。

川口「点数を閻魔帳に書くのを忘れた。全員回収する」

   生徒は文句を言って答案を提出する。

川口「残り時間は、自習にする」

川口、点数を閻魔帳に記入する。

最前列の生徒が川口に話しかける。

綾 「先生、鬼頭先生も点書かずに答案返しましたよ。夜電話がかかってきて、明日答案持ってくるようにって言われて」

川口「へーえ、あの几帳面な鬼頭先生が?」

 

○職員室・朝

   黒板「十二月十五日(木)欠勤 鬼頭」

   職員朝礼をしている。

小林「最後に、鬼頭先生の件ですが、今日、二時ごろ、警察が学校に来ます。教務部長と私が応対しますが、職員室に入って来られるかもしれません」

   始業チャイムが鳴る。

 

○職員室

   時計、二時二十分。警官二人、小林と伊藤に案内され、職員室の鬼頭の机のところへ来る。

小林「こちらが鬼頭先生の机です」

警官1「きれいに片付いてますね」

伊藤「はあ、何しろ几帳面な先生で」

警官2「机を開けてもよろしいか」

小林「はあ」

   警官2、机を順に開けて、中を見る。

   閻魔帳が見える。

 

○職員室・朝

   黒板「七月十六日(金)欠勤 鬼頭」

   川口が隣の五島と話している。

川口「鬼頭先生、今日で三日目ですね。どうしたんでしょう。突然消えるなんて」

五島「先生、どこかで事故でもあったのかな」

川口「事故じゃなくて、事件に巻き込まれたとか」

始業チャイムが鳴る。

 

○職員室

伊藤が川口のところへ来る。

伊藤「先生、申し訳ないけど、鬼頭先生の物理の成績、打ち込んでもらえませんか」

川口「いいですが、成績分かりますか」

伊藤「ここに。先生の机から拝借しました」

   伊藤は鬼頭の閻魔帳を開けて示す。

 

○教務室

   川口、コンピューターに成績を打ち込んでいる。

川口(独り言)「あれ? 秀の成績、書いてない。あいつ休んだのか。訊いてみよう」

 

○職員室

   川口が秀と話している。

川口「お前、物理の試験受けてるだろ。何点だった」

秀 「えっ、先生に言うんですか」

川口「鬼頭先生、お休みで、私が代わりに成績、打ち込んでるんだ。お前の成績だけ空欄でね」

秀 「鬼頭先生に言いました」

川口「でも、書いてないんだよ。そうそう、鬼頭先生、答案を全部回収したそうだが、お前、答案、出したんだろ?」

川口「……」

秀 「鬼頭先生に言ったけど、答案、捨てました」

川口「えっ。学校でか」

秀 「はい」

川口「そうか、でも点数、覚えてるだろう」

秀 「十二点です」

川口「そうか」

 

○教務室

   コンピュータに点数を打ち込む川口。   打ち込みが終り、立ち上がって、

川口「そうか! 分った!」

   川口、急いで教務室を出る。

 

○廊下

   走る川口

 

○校舎外側・ダストシュートゴミ集積室前

   川口が走ってきて、扉のカンヌキを開ける。鬼頭が倒れている。

川口「鬼頭先生!」

 

○道路

   救急車が走っている

 

○病院・鬼頭の病室

   川口が鬼頭と話している。

鬼頭「私があそこにいるってこと、よくわかったね」

川口「先生、几帳面だから、きっと秀の捨てた答案、探しに行かれたんだと思ったんです」

鬼頭「そうなんだ、あの日、秀が答案を捨てたというもんだから、確認しようとしてね」

 

○ゴミ集積室中(回想)

懐中電灯で照らしながら、鬼頭、ゴミの山を一つずつ丹念に調べている。扉が五センチほど半開き。

 

○ゴミ集積室前(回想)

   校務員の森山が通りかかり、集積室の扉が半開きになっているのを見て、扉を閉めて、カンヌキを掛ける。

 

○ゴミ集積室(回想)

   鬼頭、扉が閉まったことに気が付かない。秀の答案を探している。

鬼頭「あった。十二点だ」(回想終り)

 

○病院・病室

   川口が鬼頭と話している。 

鬼頭「それで、出ようとしたら、鍵がかかってるんだ。叩こうが、わめこうが、全然反応がなくてね」    

川口「そうでしたか」

鬼頭「おかげで助かったよ。几帳面も、考えもんだな」

川口「いや、私みたいなずぼらも、考えもんです」

鬼頭「じゃ、足して二で割るか」

              終