2014年9月10日水曜日

母の手紙を抱きしめて 

清水久吉  16 農家の三男

清水文代  47 久吉の母

清水やえ  73 久吉の祖母

野田忠雄  54 味噌醤油醸造販売業

「野田屋」店主

野田よね  48 忠雄の妻

横山寛一  33 「野田屋」番頭

後藤邦弥  66 煎餅問屋店主

後藤太郎  5  邦弥の孫

小僧達

 

○清水家・玄関前 朝

   ST「昭和三十二年。東北から多数の中学卒業生が集団就職で上京していた」

 

鞄を持った清水久吉が祖母のやえと話

している。

やえ「久吉、東京さ行ったら、身体に気どごつけて、達者で頑張ってけれ」

久吉「うん、ばさまも」

   半開きになっていた玄関の扉を開けて、文代が出てくる。

文代「いづまでも、ぐずぐすしてはいけね。さっさと行かんし」

久吉「だば、おおがさん、わし、行くべ」

文代「ああ、もう帰ってこのぐてええ。おめどがいなくて、せいせいするし、第一、食べ口が減っておお助かりだべ。さあ、早う、行きまれ。汽車に間に合わね」

やえ「文代、そげなことしゃべるでね」

文代、玄関の扉を音を立てて閉め、家の中に入る。

久吉「じゃ、ばさま、さえなら」

 

○清水家・家の中

   文代、涙を流して窓から久吉を見送っている。

 

○青森駅・プラットホーム

   汽車が停車している。機関車の前面に「津軽」という標識。去る人、見送る人でごった返している。

汽車が出発する。窓側の座席に座って

いる久吉の顔アップ

 

   XXX

   汽車がトンネルをくぐり、鉄橋を渡り、

煙を吐いてばく進している。

 

   XXX

   上野駅に汽車が到着

   XXX

 

○上野駅前

   集団就職者と旗を持った雇用者があちこちでお互いに挨拶している。

横山が久吉と話を見つけて、

横山「清水久吉さんですね。野田屋番頭の横

山です。よろしく」

久吉「清水久吉だす。これがら、なんとが、お願ええたすだ」

 

○野田屋店内

   ST 二か月後

   醤油樽、味噌桶や秤、醤油の一升瓶等 

   がずらりと並んでいる。

番頭や小僧達が働いている。 

中年女性客が店に来る

久吉「いらっしゃいまス」

客「この味噌、五百匁下さいな」

久吉「へい、毎度ありがどーござでゃ」

  久吉、適量の味噌を桶からしゃもじで竹皮に取り、秤に載せる。秤の針が動いている。(秤アップ)番頭の横山が「いらっしゃい」と声をかけて通りかかり、秤を見る。針が秤の目盛の五百四十を示している(目盛アップ)久吉、味噌の入った竹皮を新聞紙に包んで客に渡す。

久吉「へい、百三十円だす」

   客がお金を払って店を出る。

横山「久吉、早うずーずー弁、直しなさい。お客さんが変な顔してるじゃないか。それに五百匁なら五百匁きっちりでいいんだよ。お前みたいにおまけしてたら、身上つぶしてしまう」

久吉「ごめんしてけれ」

横山「ごめんなさい、だよ。何遍言ったらわかるんだい。あ、それから、今からお得意さんを回って御用聞きしてきておくれ」

久吉「へ、かしこまったやす」

横山「かしこまりました」

久吉「かしこまりました」

 

○屋敷の勝手口

久吉の自転車が止まる。荷台に醤油の瓶や味噌が積んである。久吉が勝手口を開けて、「まいどありー」と言って中に入っていく。

 

 

○野田屋・麹室前・真夜中

   窓から雪景色。柱時計が二時を示している。久吉、室の扉を開ける。

 

○野田屋・麹室・中

久吉、麹蓋を室から一枚一枚取り出し、麹蓋の白米をまんべんなく平らにする。室の隅にある湯たんぽを取り替える。

 

○野田屋・味噌仕込み蔵

  久吉や小僧達が白足袋を履いて、仕込み桶の中の味噌を踏んでいる。

 

○野田屋・小僧部屋・夜

久吉や小僧達が寝ている。

久吉の寝顔、アップ。やえの顔、続い

て、母文代の顔がぼんやり浮かぶ。

久吉、寝返りを打つ。

 

○野田屋・店先

   ST「久吉が奉公を初めてから一年半が経った」

 

   野田と後藤邦弥が座敷で話している。

後藤「野田さん、いい小僧さんを持たれて、羨ましいですよ。本当に、なんとお礼を言っていいやら。久吉さんがいなかったら、太郎は今頃、土左衛門ですわ」

 

XXX

久吉が川で溺れている太郎を見て、川 に飛び込み、太郎を助ける。

XXX

 

   後藤は風呂敷を開けて紙包の箱を取り出し、野田の方に差し出す。

後藤「これは、お礼の印です。どうぞお受け取り下さい。それから、久吉さんが帰りましたら、これをお渡しください。青森の出身でしたね。差し出がましいようですが、青森までの往復切符が入っています。暮れには里に帰ることでしょうから」

後藤、封筒を野田に渡す。

野田「そうですか、これはご丁寧に」

 

○野田屋

   久吉と、野田夫妻が話している。

野田「で、お礼に、後藤さんが切符をくれたんだよ、青森までの。久吉は、盆に里に帰ってないから、暮れに帰っていいよ」

久吉「……」

野田「どうした。嬉しくないのか」

久吉「……」

よね「どうしたの? 久しぶりの里帰りよ」

久吉「暮れはお店が忙しいから手伝います」

野田「それはそうだが、他にも小僧はいるし、大晦日は掛け取りだけで、番頭がやるから、そんな気を使わなくていいよ」

久吉「でも……」

よね「どうしたの、帰りたくないことでもあるの?」

久吉「……おれ、帰るところがねえ」

よね「何言ってるの?」

久吉「おれ、捨てられたんです。親から」

野田「捨てられた?」

久吉「青森を出発する日の朝、母が『もう帰ってこなくていい。食べ口が減るから、せいせいする』って言ったんです。だからおれ、帰るところねえだす。家に手紙を書いても、全然返事がないし、おれ、捨てられたんです。お願げーです。ここに置いてください」

よね「まあ、この子ったら、お母さんが、本心でそんなことを言うとでも思っているのかい。お前が里心を出さないようにと思って言ったんだよ。お母さん、どれだけお前のことを心配しているか……」

   よねは立ち上がり、タンスの引違い戸を開け、手紙の束を出して久吉に渡しながら、

よね「これ、全部お母さんからの手紙だよ。

読んでみなさい」

久吉は開封して読み出す。 

よね「お母さん、いつもお前のこと、心配しててね。でも手紙のことは内緒にしておいて欲しいって書いてあるんだよ。口減らしのことも、帰ってこなくていいというのも心を鬼にして言われたんだよ」

久吉(手紙を読みながら)「おおがさん……」

野田「立派なお母さんだ。暮れに帰って親孝行してきなさい」

久吉「ありがとうごぜいます」

 

○汽車の中

   車窓から雑木林が後ろへ後ろへ飛び、遠くに山々が見える。

久吉が手紙を読んでいる。手紙アップ。

文代の声「久吉はご迷惑ことどご、おかけしてませんか。元気にしてらすか。おれは久吉のことどご思うと、心配で心配で、眠れねことがあるんてが。いろいろごぶじょ、ごどごおかけすども、何卒これがら、なんとがお願い申し上げますだ。なんがか、悪いことどごしたら、厳しく叱ってやってけれ。こっちゃある手紙は、いっつものように久吉には黙っててけれ。家に帰りたくなったらや、いけねしがら」

    手紙に涙が落ちる。            
                   終

批評:①タイトルがダメ、例えば「母の嘘」 ② 母が久吉に冷たいことを言うが、その納得する理由が示されていない。(例えば、久吉が甘えん坊すぎるとか、以前奉公に出て、戻ってきているとか)➂ STが長すぎる ④東北弁をもっと標準語に近づける