一等航海士 (五十歳)
二等航海士 (四十八歳)
水夫数人
一千トンの帆船が航海している。
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「一九〇九年、英国船サマンサ号」
イメージ
地図上で、帆船がモザンビーク海峡を北方に航海している。
サマンサ号、暴風雨に見舞われている。
○同・甲板・早朝
二人の水夫、手すりにもたれかかって海を見ながら
水夫2「ああ、もうダメかと思ったよ」
丸太が海に漂流している。
水夫1「何だ、あれは」
水夫2 「丸太だ。丸太に何か、しがみついてるぜ」
丸太に猿がしがみついている
船長、双眼鏡で丸太を見ている。
船長「猿だ。減速投錨! 助けてやれ」
水夫達、ボートをおろして猿を救助する。
水夫3、猿を抱きかかえて船に戻る。
猿、水夫の手から飛び降りてマストに登る。
水夫達、マストのてっぺんを見ている。
猿が最上位の帆の横木にいる。
水夫4「迷惑な奴だ。キャーキャー鳴くし、小便ひっかけるし」
水夫5「でも、愛嬌あるよ」
二等航海士「船長、船員が猿に気を取られて、仕事に身が入りません。いっそ処分してはどうでしょう」
一等航海士「何言ってるんかね。君は動物愛護精神をなんと心得ているのか」
二等航海士「だからと言って、このまま猿を放置するわけにはいかないでしょう」
一等航海士「だからと言って、猿を殺していいというのかね」
船長、腕組みをして窓の外を見つめている。
二等航海士「船には動物を乗せてはいけないという規則がありますが」
一等航海士「それは出航の時だ。この猿は救助したんだ、船長命令で。規則には当てはまらないね」
二等航海士「しかし、みんな気が散って、仕事になりませんよ。船長、何とかして下さい」
船長、窓の外を見つめている。
○甲板・マストの下
バナナが山盛りに積んである。
猿、マストから降りてきてバナナを食べる。
水夫、網で猿を捕獲し、檻に入れる。
船長、檻のそばに行き、猿を見る。
猿、船長の目を見て
猿「(声)船長さん、お願いです、殺さないで下さい」
船長、猿から目をそらし、考え込む。
○甲板
猿、マストにつながれて猿回しの猿のように動いている。
水夫達、猿を円陣に囲み騒いでいる。
○船長室
二等航海士「船長、みんな仕事をしないで猿と遊んでますよ」
一等航海士「息抜きも大事だよ。心配無用だ。連中、すぐ飽きて、相手にしなくなるから」
船長、窓の外を見つめている。
船長、檻に両手を突っ込み、猿の首を締めている。
あちこち引っ掻かれる。
一等航海士、二等航海士と数名の水夫、何事かと甲板に出てきて、両者を遠巻きに見ている。
船長、ぐったりした猿を檻から出して、海に投げ込む。
終
”Letters from the Samantha” by Mark Helprinを脚本化した。
”Letters from the Samantha” by Mark Helprinを脚本化した。