2013年8月28日水曜日

海から拾った猿


 英国帆船、サマンサ号船長 (五十七歳)

一等航海士           (五十歳)

二等航海士           (四十八歳)

水夫数人

 
○おだやかな海

一千トンの帆船が航海している。

 

文字スーパー

「一九〇九年、英国船サマンサ号」

 

イメージ

地図上で、帆船がモザンビーク海峡を北方に航海している。

 
○荒れ狂う海・夜

サマンサ号、暴風雨に見舞われている。

 

○同・甲板・早朝

二人の水夫、手すりにもたれかかって海を見ながら
 
水夫1「ひどい嵐だったなぁ」

水夫2「ああ、もうダメかと思ったよ」

   丸太が海に漂流している。

水夫1「何だ、あれは」

水夫2 「丸太だ。丸太に何か、しがみついてるぜ」

   丸太に猿がしがみついている

船長、双眼鏡で丸太を見ている。

船長「猿だ。減速投錨! 助けてやれ」

水夫達、ボートをおろして猿を救助する。

水夫3、猿を抱きかかえて船に戻る。

猿、水夫の手から飛び降りてマストに登る。 

 
○甲板・夕方   

   水夫達、マストのてっぺんを見ている。

   猿が最上位の帆の横木にいる。

水夫4「迷惑な奴だ。キャーキャー鳴くし、小便ひっかけるし」

水夫5「でも、愛嬌あるよ」

 
○船長室

二等航海士「船長、船員が猿に気を取られて、仕事に身が入りません。いっそ処分してはどうでしょう」

一等航海士「何言ってるんかね。君は動物愛護精神をなんと心得ているのか」

二等航海士「だからと言って、このまま猿を放置するわけにはいかないでしょう」

一等航海士「だからと言って、猿を殺していいというのかね」

   船長、腕組みをして窓の外を見つめている。

二等航海士「船には動物を乗せてはいけないという規則がありますが」

一等航海士「それは出航の時だ。この猿は救助したんだ、船長命令で。規則には当てはまらないね」

二等航海士「しかし、みんな気が散って、仕事になりませんよ。船長、何とかして下さい」

   船長、窓の外を見つめている。

 

○甲板・マストの下

バナナが山盛りに積んである。

猿、マストから降りてきてバナナを食べる。

    水夫、網で猿を捕獲し、檻に入れる。

  船長、檻のそばに行き、猿を見る。

猿、船長の目を見て

猿「(声)船長さん、お願いです、殺さないで下さい」

   船長、猿から目をそらし、考え込む。

 

○甲板

猿、マストにつながれて猿回しの猿のように動いている。

水夫達、猿を円陣に囲み騒いでいる。

 

○船長室

二等航海士「船長、みんな仕事をしないで猿と遊んでますよ」

一等航海士「息抜きも大事だよ。心配無用だ。連中、すぐ飽きて、相手にしなくなるから」

   船長、窓の外を見つめている。

 
○甲板・猿の檻の前・夜明け

   船長、檻に両手を突っ込み、猿の首を締めている。
   あちこち引っ掻かれる。

   一等航海士、二等航海士と数名の水夫、何事かと甲板に出てきて、両者を遠巻きに見ている。

船長、ぐったりした猿を檻から出して、海に投げ込む。

                         

                   終

”Letters from the Samantha” by Mark Helprinを脚本化した。