2015年11月20日金曜日

古い似顔絵 TVドラマ


     古い似顔絵

    

天野大輝 29(6) 高校教員 

天野重雄 59(37)大輝の父 会社員

草笛律子 52(30)主婦 重雄の前妻

天野彩芽 45(23)重雄の後妻      

草笛翔太    18 大輝の腹違いの弟

山田富美    56 重雄の妹

天野やえ    83 重雄の母

 

 

 

○天野家・居間

   大輝が律子の似顔絵を描いている。

大輝「ちょっと、母さん、動かないでよ」

律子「あ、ごめん、ごめん」

   大輝、描き終わった絵を律子に見せる。

律子「上手ね。この絵、母さんに頂だい」

大輝「いいよ」

 

○天野家・居間

テーブルをはさんで重雄、やえ、律子。

重雄「離婚したけりゃ離婚すればいいよ」

律子「勿論よ、あなたがそんなふしだらな男だとは思ってませんでした」

重雄「ふしだらとは何だ。真面目に付き合ってるんだ」

律子「愛人と? 真面目に?」

重雄「ああ、結婚するつもりだ」

律子「勝手にすればいいわ。大輝は連れてきますからね」

重雄「何言ってるんだ、置いておくのが当然だろう。お前、どうやって育てるんだ」

律子「どうにでも育てられますよ」

やえ「律子さん、重雄が彩芽と付き合ってるのは、もとはといえばあなたがだらしないからよ。大輝は天野家がしっかりそだてます。女手でこの世の中育てられるもんですか」

律子「育ててみせます」

重雄「どうしても連れていくというなら、離婚は取りやめだね」

律子「……」

重雄「さあ、どうするんだ」

律子「……置いていきます」

 

○天野家・玄関・タクシーが停まっている。

   律子、大輝を抱いている。

律子「母さん、しばらく遠くに行くから、こローザ手紙書いてね」

大輝「どこへ行くの。早く帰ってきてね」

   律子を乗せたタクシー発進。

 

○天野家・大輝の部屋

   大輝、手紙を書いている。手紙アップ。

大輝の声「おかさんがどこかにいってから、きょうで三にちたちました はやくかえってきて てがみちょうだい だいき」

 

○天野家・玄関

   重雄、玄関ポストから手紙を取り、律子の手紙を選び出し、ゴミ箱へ。

 

○天野家・居間

   大輝と重雄が話している

大輝「お父さん、今日も母さんから手紙来てなかった?」

重雄「ああ、来てないよ」

大輝「おかしいなあ、もう二週間も来てないよ」

重雄「大輝、実はな、お前、子供だからわからないかもしれないけど、お母さん、別の男の人と暮らしているんだ。お前を捨ててね」

大輝「僕を捨てて?」

重雄「だから手紙書かないんだよ」

大輝「ほんと?」

重雄「そう、もうお母さんに手紙書かない方がいいよ。返事を書いてこないんだから」

 

○天野家・居間

   ST 半年後

   重雄、彩芽、大輝、話している。

重雄「大輝、こちら、今日から新しいおかあさんだ」

大輝「……」

彩芽「大輝ちゃん、よろしくね。はいこれ、プレゼントよ」

   彩芽、紙袋を渡す。大輝、開ける

   モデルガンが入っている。

大輝「わあー、すごい、開けていい?」

   大輝、ガンを取り出し、彩芽と重雄を撃つ。

 

天野家・食卓・朝

   大輝、重雄、彩芽、やえ、朝食中

大輝「なにこれ、この味噌汁、おかしいよ」

重雄「なにが?」

大輝「母さんの味噌汁と違う」

重雄「大輝、もうお母さんのこと言わないの、お前を捨てたんだから」

大輝「だって、この味噌汁」

重雄「そんなこと言わないの、お母さん一生懸命作ったんだから」

大輝「このおばさん、僕のお母さんじゃない!」

   大輝、食卓を離れる。

 

○大輝の部屋

   大輝、手紙を書いている。

大輝の声「お母さん、さいきんへんなおばさんがうちにきたよ みそしるまずいし はやくかえってきてよ てがみかいてよ……」

   

○天野家・食卓

   ST 十年後

   大輝、重雄、やえ、夕食を食べている。

大輝「今日も、彩芽さん、遅くなるの? もうコンビニ弁当なんて飽きたよ」

やえ「わたしが料理できなくてごめんよ。年で、手が思うように動かないんだよ。でも律子は今頃どうしてるかしら」

大輝「ばあちゃん、やめてよ、あんな僕を捨てた女の話は」

やえ「……それにしても、彩芽は変わったね」

重雄「大輝と合わないから、家にいたくないんだ」

大輝「大体、父さん、あんな女に騙されて、僕が家を出るよ。名古屋の高校へ行くよ」

やえ「大輝、家にいておくれよ、おまえがいないと、寂しいよ」

大輝「だって、いつも彩芽さんと喧嘩だよ、彩芽、すぐ実家に帰ってしまって、お父さんが呼び戻して。だから家出るよ」

やえ「そうねえ」

 

○開陽中高等学校・寮

   ST 3年後

   大輝、寮の個室で勉強している。

 

○名古屋中央高校

   ST 十年後

   大輝が教壇で英語の教鞭をとっている。

大輝「この関係代名詞の先行詞は……」

 

○同高校・休憩室

   大輝、同僚と話している

同僚「この夏休み、先生、予定は?」

大輝「東京で開かれる英語教員研修に出ようと思ってますが」

 

○大輝の住むマンション・部屋・夕刻

   大輝、郵便物を見ている。草笛翔太という差出人の封筒あり。

翔太の声「私は草笛翔太という者です。律子の息子で、あなたの腹違いの弟になります。驚かれたでしょうが、母があなたに会いたがっています。母は癌で余命一、二か月です。ぜひ会ってやってください。病院は虎の門病院、605号室です。」

大輝独り言「なにお今更、俺を捨てておいて」

  

○東京ガーデンパレスホテル・大輝の部屋

   大輝に携帯電話がかかる

富美子「もしもし、私、富美子だけど、今東京に来てるんだって?」

大輝「えっ、おばさん? タイから戻ったの?」

富美子「ええ、テロがあってね、今、八王子に住んでるの」

大輝「よく電話分ったね」

富美子「お父さんに聞いたんよ。先生やってるって? 立派ね、一度会わない? 二十年ぶりかしら」

 

○喫茶店・夕方

   大輝と富美子話している

富美子「ええっ! 大ちゃん知らなかったの? 律子さん、大ちゃんを捨ててなんかいないのよ。兄さんに愛人ができてね」

大輝「愛人? 彩芽さん?」

富美子「そう、だから離婚したの」

大輝「僕を捨てて?」

富美子「ちがうのよ、兄が大ちゃんを置いていかなかったら離婚しないって言ったのよ。だから、律子さん泣く泣く大ちゃんと別れたのよ」

大輝「でも、手紙書いても返事が来なかった」

富美子「兄が全部処分したのよ」

大輝「そんな」

富美子「だから、病院に行ってあげなさい」

 

○虎の門病院・六〇五号室

   大輝が部屋に入ると律子が酸素マスクをつけている。翔太が付き添う。

大輝「天野大輝です」

翔太「兄さん! よく来てくれました。母さん、大輝さんだよ」

   律子、目を見開き、酸素マスクから何か言っている。律子、茶棚を指で示す。翔太、茶棚の引き出しを開ける。似顔絵と手紙の束がある。律子、うなずいて大輝を指さす。翔太、大輝に絵と手紙を渡す。大輝受け取る。一つの封筒から便箋を出す。便箋にところどころ水滴のような跡。大輝、涙ぐむ。大輝、ベッドに行く。

大輝「お母さん! ごめん! ちっとも知らなかったんだ」

  律子、涙顔。酸素マスクを外す。

律子「よく来てくれたね……大ちゃん……わたしの、大ちゃん……」

   大輝、律子の手を握る。律子、息を引き取る。
       

  極上のもち肌 TVドラマ

 極上のもち肌

 


山田誠一 79 (39)元商事会社社員  

山田順子 71 (31)誠一の妻  

林由美     (23)商事会社社員

商事会社社員数名

医師 

看護師

 

○N病院・玄関

   山田と順子がとタクシーに乗り込む。医師や看護師達見送る。蝉の声。

山田「ありがとうございました」

順子「お世話になりました」

   タクシー発進。

  

○山田家・和室

   山田誠一が布団に横たわり、枕元に順

子。蝉の声。

山田「すまんなぁ、お前には感謝してるよ」

順子「何言ってるのよ。当たり前のことしてるんじゃない。それより早く良くなってよ」

山田「ああ、でも、胃を取っちゃたからなぁ」

順子「胃がなくても元気な人、一杯いるのよ」

山田「そうかぁ?」

順子「野球の王さんね、胃、全部摘出してるけど、高校野球の始球式やるのよ」

山田「へーぇ、すごいね」

順子「弱気はだめよ、また温泉旅行にでも出かけましょうよ」

山田「ああ」

山田「あのな、順子。実は……この際、謝っておきたいことがあるんや」

順子「謝るって?」

山田「四十年前のことだけど」

順子「なによ、そんな昔のこと」

山田「いや、この際、謝っておきたいんや」

順子「ひょっとして、あの娘のこと? 何て名前だったか」

山田「由美だよ」

順子「ああ、でも、あの時あなたきちんと謝ったじゃない」

山田「いや、もう一度謝りたいんだ」

順子「もういいわよ、そんな昔のこと。もう時効よ」

 

○M商事株式会社・社員食堂(回想)

   ST 四十年前

   山田、由美、数人の社員が同じテーブルで昼食を食べている。

山田「きのう『未知との遭遇』見てきたよ。すごい映画だよ。さすがスピルバーグだね」

男性社員1「へーえ、そんなにいいんですか」

女性社員「SFものでしょ? 女性でも面白いかしら」

山田「勿論。お薦めだよ」

男子社員2「じゃ、今度見に行こう」

山田「俺ももう一度見に行くつもりだ」

由美「あのう……」

男性社員2「おっと、もう一時だ」

   みんな立ち上がる。

 

○M商事・廊下

   山田が由美とすれ違う。

由美「あ、山田さん」

山田「えっ」

由美「あのう、お昼に話していた映画、もう一度見に行くってほんとですか」

山田「ああ、もう一度見たいと思ってるよ」

由美「じゃあ、ご一緒させてもらえませんか」

山田「ええっ、林さん、友達といかないの?」

由美「いえ、山田さんと一緒に見たいんです」

山田「私は構わないけど、独身女性が妻子ある男と映画行っていいの? 親は何とも言わない?」

由美「親は私のこと干渉しない主義です」

山田「でも、それって、まずいよ」

由美「あの映画、来週中やってますから、ご返事待ってます」

由美、軽く頭を下げて去る

 

○山田家・玄関・朝

山田、出勤するところ。

山田「今日遅くなるかも知れん。電話するよ」

順子「ええ」

 

○M商事・営業課

   時計が6時。山田が電話している。

山田「やはり、残業だ。遅くなるよ」

順子「分かったわ」

 

○映画館・中

   『未知との遭遇』一場面。山田、由美

の手を握る。由美は山田の手に自分の  

手を添える。

 

○映画館・外・街路・夜

   山田と由美、映画館を出て並んで歩く。街のネオンサインなど。

山田「軽く食事していこうか」

由美「ええ」

 

○山田家・玄関・夜

   山田、帰宅する。

山田「ただいまぁ」

順子「お帰り、大変ね、遅くまで」

山田「ああ、疲れたよ」

 

○山田家・リビングルーム

   山田と順子、コーヒーを飲んでいる。

順子「あなた最近残業多いけど、大丈夫?」

山田「ああ、適当に手抜きしてるから」

順子「そう。無理しないでね。あなただけの身体じゃないんだから」

山田「分かってるよ」

順子「私のほかにもう一人いるのよ」

山田「もう一人って?」

順子「こローザ」

   順子腹を触る。

山田「ええっ、じゃあ、そうか! もうだめかと思ってた」

順子「わたしもよ」

山田「身体大事にしろよ」

順子「ええ」

山田「そうそう、この前、中西に会ってね」

順子「あの中西さん?」

山田「ああ、中西から今度の日曜日、ゴルフ旅行に行かないかって、誘われたんだ」

順子「中西さんと二人で行くの?」

山田「いや、他に三人いて合計五人だよ。でも止めとこか、お前、その身体だから」

順子「心配ないわよ。行って来たら」

山田「すまんな」

 

○山田家・玄関前・朝

   山田、車にゴルフ道具を積み込み発進。

山田「じゃ」

順子「気をつけてね」

   

○T高原・湖畔沿いドライブウエイ

   山田が運転する車の助手席に由美。

由美「大丈夫なの?」

山田「大丈夫だって、ゴルフ旅行に行ったことになってるんだから」

 

○T高原・Aホテル・駐車場

   山田の車が止まり、山田と由美、下車。

 

○Aホテル・展望レストラン

   テーブルに山田と由美。湖畔夜景。

山田「こんな素敵な夜はないなぁ。由美のような可愛い娘とこうして」

由美「わたしも、とっても幸せ」

山田「じゃ、由美の幸せを祈って乾杯するか」

山田、由美「乾杯!」

 

○山田家・リビングルーム

   順子、山田のスーツのポケットから由美の写真(長い髪)を発見。

順子「あなた、これ誰なの?」

   順子、写真を見せる。山田うろたえる。

山田「俺、知らないよ。どこにあった?」

順子「ここよ、このポケットよ」

山田「誰かのいたずらだ。会社の同僚の。ひどい奴だ」

順子「あなた、浮気してるんじゃない? 黙ってたけど、車の助手席に長い髪があったのよ。ゴルフ旅行から帰ってきた車の中に」

山田「そりゃ何かの間違い……」

順子「いい加減にしてよ! 子供が生まれてくるから、私ずっと我慢してたの。どうして私を裏切るのよ、どうして、どうして!」

   順子泣き崩れる。

山田「……すまん。悪かった」

順子「悪かったで済むと思ってるの! 私悔しい! もう離婚よ!」

   順子、泣いて山田を何度も両手で叩く。

山田「すまん。由美には振られたんだ。散々貢がせて。ひどい女だ。最近結婚したよ」

順子「あなたが馬鹿だからよ。私がいるというのに。じゃあ手を切ったのね?」

山田「ああ」

順子「信用していいのね」

山田「ああ。悪かったよ」

(回想終り)

 

○山田家・和室

   山田が布団に横たわり、枕元に順子。蝉の声。

山田「いや、もう一度謝りたいんだ」

順子「何言ってるのよ。もういいわよ、そんな昔のこと。もう時効よ」

山田「でも」

順子「いまさら、何を謝るの」

山田「時効ならこの際、正直に言うけど。実は俺、由美が結婚してからも会ってたんだ」

順子「ええっ」

山田「あれから出張でよく大阪へ行ったろ」

順子「噓なの!」

山田「噓だよ。由美の旦那の留守に家に行ってね。そのこと今謝りたいんだよ」

   順子、形相が変わり、手を震わせる。

山田「由美の身体、敏感に反応してね。それ

に肌がね、お前のサメ肌と違って、もち肌

だったよ。極上の」

順子、山田の首を絞める。山田、目を剝いて手足をバタつかせる。

山田、抵抗しなくなり、ぐったりする。

順子、目から涙。

 

                  終