2015年11月20日金曜日

  極上のもち肌 TVドラマ

 極上のもち肌

 


山田誠一 79 (39)元商事会社社員  

山田順子 71 (31)誠一の妻  

林由美     (23)商事会社社員

商事会社社員数名

医師 

看護師

 

○N病院・玄関

   山田と順子がとタクシーに乗り込む。医師や看護師達見送る。蝉の声。

山田「ありがとうございました」

順子「お世話になりました」

   タクシー発進。

  

○山田家・和室

   山田誠一が布団に横たわり、枕元に順

子。蝉の声。

山田「すまんなぁ、お前には感謝してるよ」

順子「何言ってるのよ。当たり前のことしてるんじゃない。それより早く良くなってよ」

山田「ああ、でも、胃を取っちゃたからなぁ」

順子「胃がなくても元気な人、一杯いるのよ」

山田「そうかぁ?」

順子「野球の王さんね、胃、全部摘出してるけど、高校野球の始球式やるのよ」

山田「へーぇ、すごいね」

順子「弱気はだめよ、また温泉旅行にでも出かけましょうよ」

山田「ああ」

山田「あのな、順子。実は……この際、謝っておきたいことがあるんや」

順子「謝るって?」

山田「四十年前のことだけど」

順子「なによ、そんな昔のこと」

山田「いや、この際、謝っておきたいんや」

順子「ひょっとして、あの娘のこと? 何て名前だったか」

山田「由美だよ」

順子「ああ、でも、あの時あなたきちんと謝ったじゃない」

山田「いや、もう一度謝りたいんだ」

順子「もういいわよ、そんな昔のこと。もう時効よ」

 

○M商事株式会社・社員食堂(回想)

   ST 四十年前

   山田、由美、数人の社員が同じテーブルで昼食を食べている。

山田「きのう『未知との遭遇』見てきたよ。すごい映画だよ。さすがスピルバーグだね」

男性社員1「へーえ、そんなにいいんですか」

女性社員「SFものでしょ? 女性でも面白いかしら」

山田「勿論。お薦めだよ」

男子社員2「じゃ、今度見に行こう」

山田「俺ももう一度見に行くつもりだ」

由美「あのう……」

男性社員2「おっと、もう一時だ」

   みんな立ち上がる。

 

○M商事・廊下

   山田が由美とすれ違う。

由美「あ、山田さん」

山田「えっ」

由美「あのう、お昼に話していた映画、もう一度見に行くってほんとですか」

山田「ああ、もう一度見たいと思ってるよ」

由美「じゃあ、ご一緒させてもらえませんか」

山田「ええっ、林さん、友達といかないの?」

由美「いえ、山田さんと一緒に見たいんです」

山田「私は構わないけど、独身女性が妻子ある男と映画行っていいの? 親は何とも言わない?」

由美「親は私のこと干渉しない主義です」

山田「でも、それって、まずいよ」

由美「あの映画、来週中やってますから、ご返事待ってます」

由美、軽く頭を下げて去る

 

○山田家・玄関・朝

山田、出勤するところ。

山田「今日遅くなるかも知れん。電話するよ」

順子「ええ」

 

○M商事・営業課

   時計が6時。山田が電話している。

山田「やはり、残業だ。遅くなるよ」

順子「分かったわ」

 

○映画館・中

   『未知との遭遇』一場面。山田、由美

の手を握る。由美は山田の手に自分の  

手を添える。

 

○映画館・外・街路・夜

   山田と由美、映画館を出て並んで歩く。街のネオンサインなど。

山田「軽く食事していこうか」

由美「ええ」

 

○山田家・玄関・夜

   山田、帰宅する。

山田「ただいまぁ」

順子「お帰り、大変ね、遅くまで」

山田「ああ、疲れたよ」

 

○山田家・リビングルーム

   山田と順子、コーヒーを飲んでいる。

順子「あなた最近残業多いけど、大丈夫?」

山田「ああ、適当に手抜きしてるから」

順子「そう。無理しないでね。あなただけの身体じゃないんだから」

山田「分かってるよ」

順子「私のほかにもう一人いるのよ」

山田「もう一人って?」

順子「こローザ」

   順子腹を触る。

山田「ええっ、じゃあ、そうか! もうだめかと思ってた」

順子「わたしもよ」

山田「身体大事にしろよ」

順子「ええ」

山田「そうそう、この前、中西に会ってね」

順子「あの中西さん?」

山田「ああ、中西から今度の日曜日、ゴルフ旅行に行かないかって、誘われたんだ」

順子「中西さんと二人で行くの?」

山田「いや、他に三人いて合計五人だよ。でも止めとこか、お前、その身体だから」

順子「心配ないわよ。行って来たら」

山田「すまんな」

 

○山田家・玄関前・朝

   山田、車にゴルフ道具を積み込み発進。

山田「じゃ」

順子「気をつけてね」

   

○T高原・湖畔沿いドライブウエイ

   山田が運転する車の助手席に由美。

由美「大丈夫なの?」

山田「大丈夫だって、ゴルフ旅行に行ったことになってるんだから」

 

○T高原・Aホテル・駐車場

   山田の車が止まり、山田と由美、下車。

 

○Aホテル・展望レストラン

   テーブルに山田と由美。湖畔夜景。

山田「こんな素敵な夜はないなぁ。由美のような可愛い娘とこうして」

由美「わたしも、とっても幸せ」

山田「じゃ、由美の幸せを祈って乾杯するか」

山田、由美「乾杯!」

 

○山田家・リビングルーム

   順子、山田のスーツのポケットから由美の写真(長い髪)を発見。

順子「あなた、これ誰なの?」

   順子、写真を見せる。山田うろたえる。

山田「俺、知らないよ。どこにあった?」

順子「ここよ、このポケットよ」

山田「誰かのいたずらだ。会社の同僚の。ひどい奴だ」

順子「あなた、浮気してるんじゃない? 黙ってたけど、車の助手席に長い髪があったのよ。ゴルフ旅行から帰ってきた車の中に」

山田「そりゃ何かの間違い……」

順子「いい加減にしてよ! 子供が生まれてくるから、私ずっと我慢してたの。どうして私を裏切るのよ、どうして、どうして!」

   順子泣き崩れる。

山田「……すまん。悪かった」

順子「悪かったで済むと思ってるの! 私悔しい! もう離婚よ!」

   順子、泣いて山田を何度も両手で叩く。

山田「すまん。由美には振られたんだ。散々貢がせて。ひどい女だ。最近結婚したよ」

順子「あなたが馬鹿だからよ。私がいるというのに。じゃあ手を切ったのね?」

山田「ああ」

順子「信用していいのね」

山田「ああ。悪かったよ」

(回想終り)

 

○山田家・和室

   山田が布団に横たわり、枕元に順子。蝉の声。

山田「いや、もう一度謝りたいんだ」

順子「何言ってるのよ。もういいわよ、そんな昔のこと。もう時効よ」

山田「でも」

順子「いまさら、何を謝るの」

山田「時効ならこの際、正直に言うけど。実は俺、由美が結婚してからも会ってたんだ」

順子「ええっ」

山田「あれから出張でよく大阪へ行ったろ」

順子「噓なの!」

山田「噓だよ。由美の旦那の留守に家に行ってね。そのこと今謝りたいんだよ」

   順子、形相が変わり、手を震わせる。

山田「由美の身体、敏感に反応してね。それ

に肌がね、お前のサメ肌と違って、もち肌

だったよ。極上の」

順子、山田の首を絞める。山田、目を剝いて手足をバタつかせる。

山田、抵抗しなくなり、ぐったりする。

順子、目から涙。

 

                  終

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