人面腫瘍
亀田健太 30 XX会社、社員
人面おでき
真暁和尚 68 長松寺、住職
真照 19 長松寺、小坊主
青山由佳 24 XX会社、社員
浦田宏和 47 皮膚科医師
○亀田の部屋・真夜中
亀田が起きて左手の二の腕を見ると腫れ物ができている。
亀田(M)「いつの間に? こんなおできが」
○XX会社・営業課
社員が働いている。亀田、あたりを気にしながら、シャツをまくる。おできが人面のようになっている(おできアップ)
○亀田の住むマンション・夜
亀田がたこ焼きを食べ、酒を飲んで「笑点」を見ている。
おでき「けんた」
健太が驚いて、周りを見る。
おでき「俺にも食わせろ」
健太、シャツをまくっておできを見る。
健太「話せるんか」
おでき「当たり前よ。早く食わせろ」
健太、たこ焼きを小さく切って、おできの口に入れる。おでき、食べる。
おでき「もっとくれ、それから酒も」
健太「おできの分際で」
おでき「なんだと、膿を顔にぶっ飛ばすぞ」
健太「わかった」
健太、ストローで酒を飲ませる。
おでき「冷蔵庫になんかつまみがあるだろ」
健太「わかった、わかった」
健太、冷蔵庫を開ける。
おでき「なんだ、野菜が全然ないじゃないか。野菜食わないと、体に悪いぞ」
健太「うるさい、お前は一体何ものなんだ」
おでき「おれはお前だ」
○健太自宅・朝
健太、携帯で電話している
健太「あの、○○皮膚科ですか。変なおできができて、診てもらえますか。じゃ、今から行きます」
健太、別の電話をかける。
健太「XX会社ですか、営業の亀田です。風邪で病院に行きますので、遅刻します」
○皮膚科・診察室
健太、医者におできを見せている。
医者「人の顔に似てますな。で、症状は?」
健太「こいつ、酒は飲むし、飯は食べるし、話はするし、お節介なんです」
医者「ええっ、そんな。こんな腫瘍は世界初です。学会に発表しようと思いますが……」
おでき「健ちゃん、この医者、ヤブだよ」
健太「うるさい。お前は黙ってろ」
医者「前代未聞だ。ビデオと撮りますのでそのまま。君、ビデオを持ってきてくれ」
看護師がビデオを持ってくる。
医者「おできくん、君は一体何ものですか」
おできは口をへの字に(アップ)
医者「機嫌をそこねたかな」
健太「先生、注射とか、薬はないですか」
医者「このような皮膚病は初めてで、正直、どう対処法がわかりません。日本中、いや、世界中どの皮膚科に行ってもわからんでしょうな」
○XX会社・営業課
健太が仕事をしている。
おでき「健ちゃん」
健太「なんだ、小さい声で話してくれよ」
おでき(小声で)「わかった。いまコピーとってる女、美人だな」
健太「由佳か、お前、目ざといな」
おでき「当たり前よ。お前が目ざといからな」
由佳が近づいてくる
由佳「亀井さん、風邪ですって?」
健太「うん、まあ」
由佳「これ、喉にいいの」
由佳、のど飴を健太に渡す。
健太「ありがと」
由佳が立ち去る。
おでき「由佳、お前に気があるぞ」
隣の社員「何をぶつぶつ言ってるんだよ」
健太「あ、失礼」
おでき「思い切って告白してしまえよ」
○エレベーター・中
健太と由佳だけが乗っている。
健太「さっきは、ありがとう」
由佳「早く治ってね」
おでき「チャンスだ、告白しろ。僕はあなたを愛しています。結婚して下さいって」
由佳「ええ? 誰? 今の」
健太「ごめん、僕の分身だよ」
由佳「分身?」
エレベーターが開いて健太、降りる。
○コンビニ・中
健太はウイスキーを買う。
○XX会社・洗面所
健太がウイスキーをおできに飲ませている。営業課長が洗面所に入ってくる。
課長「勤務中にアルコールはいけないよ」
健太「あ、すみません」
○健太の自宅
健太、コンピューター画面を見ている
健太「これがいい、ぴったりだ」
画面アップ。宣伝文句。
「癌から腫瘍まで断食療法で治します。長松寺道場。真暁」
健太「……はい、では、二十日に参ります」
真暁「ああ、それから、精神集中をしますので、携帯電話やiPod類は持ち込み禁止です」
○長松寺・道場
真暁がおできを見ている。
真暁「じゃあ、明日から断食に入ります」
ST 「三日後」
○道場・朝
健太が畳の部屋に座っている。健太の前に膳が並んでいる。膳の上には肉、魚介、果物、野菜等、ありとあらゆる食品が少量ずつ並んでいる。
真暁「今日から少しづつ食べて下さい。あなたでなくて、腫瘍に食べさせるのです」
健太は肉、魚介、果物、海藻を少しずつおできの口に入れる。
健太「次は野菜だ」
健太は、いろいろな野菜を与える。みょうがを食べさせようとすると、吐き出す。
おでき「こんなもん食えるか」
真暁和尚が来る。
真暁「どうですか、なんでも食べるでしょう」
健太「はあ、でもみょうがだけは食べません」
真暁「そうですか。じゃ、酒を飲ませてさい」
健太、酒を飲ませる。
おでき「うまい酒だ。口当たりがいい。なんという酒だ」
真暁「鬼ころしです」
おでき「なに、鬼を殺すのか」
真暁「そうです。鬼を酒で殺すのですよ」
真暁、奥に向かって、
真暁「真照、いるか」
真照「はーい」
真暁は真照に耳打ちする。真照、去る。
健太、酒をおできに飲ませる。
おできの顔が赤くなってくる。
真照、お椀と箸とストローを持って来る。
真照「持ってきました」
真暁「よし、では治療を始めましょう。亀田さん、何があっても腕を動かさないでください。真照、おできの口を開けてなさい」
真照、箸でおできの口をこじ開ける。真暁、ストローで汁を流し込む。
おでき「なんだ、これは」
おでき、汁を吐き出す。
真暁「それ、もっと、口をこじ開けて」
真暁、汁を流し込む。おでき、吐き出す。真暁、酒を汁に混ぜて飲ませる。次第にしかめ面が消えていき、人面おできが消えていく。庭の木々が窓から見える。おできが完全に消える。
健太「ありがとうございました。ところで、あれは、なんの汁ですか」
真暁「みょうがをすりつぶした汁です。みょうがが天敵だったのですよ」
○健太の自宅
健太、携帯のメールを見る。由佳からのメールあり。メールの文面アップ
由佳の声「こんにちわ、青山です。この前エレベーターで分身さん?が言ってたことホントですか。近いうちにお茶しませんか」
○喫茶店
健太と由佳が話している。
由佳「そうでしたか、でも、治ってよかったですね」
健太「ところがね、なんか寂しいんだよ。おできが消えてから、生活にハリがなくなってしまって。あんなに本音をズバズバ言う存在がなくなると、なんだか俺、もぬけの殻みたい。おできがあると、うるさいけど、なくなると、寂しくなるって、人間って、勝手なもんだ」
○健太自宅・朝
顔を洗って、手の甲を見ると人面おできらしきものができている。
コメント
最後は由佳が「私が分身になってあげる」と終わったほうがいい。
0 件のコメント:
コメントを投稿