2014年12月30日火曜日

人面腫瘍


      人面腫瘍

 

亀田健太 30 XX会社、社員

人面おでき

真暁和尚 68 長松寺、住職

真照   19 長松寺、小坊主

青山由佳 24 XX会社、社員

浦田宏和 47 皮膚科医師


○亀田の部屋・真夜中

   亀田が起きて左手の二の腕を見ると腫れ物ができている。

亀田(M)「いつの間に? こんなおできが」

  

 

XX会社・営業課

   社員が働いている。亀田、あたりを気にしながら、シャツをまくる。おできが人面のようになっている(おできアップ)

 

○亀田の住むマンション・夜

   亀田がたこ焼きを食べ、酒を飲んで「笑点」を見ている。

おでき「けんた」

   健太が驚いて、周りを見る。

おでき「俺にも食わせろ」

   健太、シャツをまくっておできを見る。

健太「話せるんか」

おでき「当たり前よ。早く食わせろ」

   健太、たこ焼きを小さく切って、おできの口に入れる。おでき、食べる。

おでき「もっとくれ、それから酒も」

健太「おできの分際で」

おでき「なんだと、膿を顔にぶっ飛ばすぞ」

健太「わかった」

   健太、ストローで酒を飲ませる。

おでき「冷蔵庫になんかつまみがあるだろ」

健太「わかった、わかった」

   健太、冷蔵庫を開ける。

おでき「なんだ、野菜が全然ないじゃないか。野菜食わないと、体に悪いぞ」

健太「うるさい、お前は一体何ものなんだ」

おでき「おれはお前だ」

  

○健太自宅・朝

健太、携帯で電話している

健太「あの、○○皮膚科ですか。変なおできができて、診てもらえますか。じゃ、今から行きます」

   健太、別の電話をかける。

健太「XX会社ですか、営業の亀田です。風邪で病院に行きますので、遅刻します」

 

○皮膚科・診察室

健太、医者におできを見せている。

医者「人の顔に似てますな。で、症状は?」

健太「こいつ、酒は飲むし、飯は食べるし、話はするし、お節介なんです」

医者「ええっ、そんな。こんな腫瘍は世界初です。学会に発表しようと思いますが……」

おでき「健ちゃん、この医者、ヤブだよ」

健太「うるさい。お前は黙ってろ」

医者「前代未聞だ。ビデオと撮りますのでそのまま。君、ビデオを持ってきてくれ」

看護師がビデオを持ってくる。

医者「おできくん、君は一体何ものですか」

   おできは口をへの字に(アップ)

医者「機嫌をそこねたかな」

健太「先生、注射とか、薬はないですか」

医者「このような皮膚病は初めてで、正直、どう対処法がわかりません。日本中、いや、世界中どの皮膚科に行ってもわからんでしょうな」

   

XX会社・営業課

   健太が仕事をしている。

おでき「健ちゃん」

健太「なんだ、小さい声で話してくれよ」

おでき(小声で)「わかった。いまコピーとってる女、美人だな」

健太「由佳か、お前、目ざといな」

おでき「当たり前よ。お前が目ざといからな」

   由佳が近づいてくる

由佳「亀井さん、風邪ですって?」

健太「うん、まあ」

由佳「これ、喉にいいの」

   由佳、のど飴を健太に渡す。

健太「ありがと」

   由佳が立ち去る。

おでき「由佳、お前に気があるぞ」

隣の社員「何をぶつぶつ言ってるんだよ」

健太「あ、失礼」

おでき「思い切って告白してしまえよ」

 

○エレベーター・中

   健太と由佳だけが乗っている。

健太「さっきは、ありがとう」

由佳「早く治ってね」

おでき「チャンスだ、告白しろ。僕はあなたを愛しています。結婚して下さいって」

由佳「ええ? 誰? 今の」

健太「ごめん、僕の分身だよ」

由佳「分身?」

   エレベーターが開いて健太、降りる。

 

○コンビニ・中

健太はウイスキーを買う。

 

XX会社・洗面所

   健太がウイスキーをおできに飲ませている。営業課長が洗面所に入ってくる。

課長「勤務中にアルコールはいけないよ」

健太「あ、すみません」

 

○健太の自宅

   健太、コンピューター画面を見ている

健太「これがいい、ぴったりだ」

   画面アップ。宣伝文句。

「癌から腫瘍まで断食療法で治します。長松寺道場。真暁」

健太「……はい、では、二十日に参ります」

真暁「ああ、それから、精神集中をしますので、携帯電話やiPod類は持ち込み禁止です」

 

○長松寺・道場

   真暁がおできを見ている。

真暁「じゃあ、明日から断食に入ります」

   ST 「三日後」

 

○道場・朝

   健太が畳の部屋に座っている。健太の前に膳が並んでいる。膳の上には肉、魚介、果物、野菜等、ありとあらゆる食品が少量ずつ並んでいる。

真暁「今日から少しづつ食べて下さい。あなたでなくて、腫瘍に食べさせるのです」

   健太は肉、魚介、果物、海藻を少しずつおできの口に入れる。 

健太「次は野菜だ」

健太は、いろいろな野菜を与える。みょうがを食べさせようとすると、吐き出す。

おでき「こんなもん食えるか」

  真暁和尚が来る。

真暁「どうですか、なんでも食べるでしょう」

健太「はあ、でもみょうがだけは食べません」

真暁「そうですか。じゃ、酒を飲ませてさい」

健太、酒を飲ませる。

おでき「うまい酒だ。口当たりがいい。なんという酒だ」

真暁「鬼ころしです」

おでき「なに、鬼を殺すのか」

真暁「そうです。鬼を酒で殺すのですよ」

   真暁、奥に向かって、

真暁「真照、いるか」

真照「はーい」

真暁は真照に耳打ちする。真照、去る。

健太、酒をおできに飲ませる。

おできの顔が赤くなってくる。

   真照、お椀と箸とストローを持って来る。

真照「持ってきました」

真暁「よし、では治療を始めましょう。亀田さん、何があっても腕を動かさないでください。真照、おできの口を開けてなさい」

   真照、箸でおできの口をこじ開ける。真暁、ストローで汁を流し込む。

おでき「なんだ、これは」

   おでき、汁を吐き出す。

真暁「それ、もっと、口をこじ開けて」   

真暁、汁を流し込む。おでき、吐き出す。真暁、酒を汁に混ぜて飲ませる。次第にしかめ面が消えていき、人面おできが消えていく。庭の木々が窓から見える。おできが完全に消える。

健太「ありがとうございました。ところで、あれは、なんの汁ですか」

真暁「みょうがをすりつぶした汁です。みょうがが天敵だったのですよ」

 

○健太の自宅

   健太、携帯のメールを見る。由佳からのメールあり。メールの文面アップ

由佳の声「こんにちわ、青山です。この前エレベーターで分身さん?が言ってたことホントですか。近いうちにお茶しませんか」

 

○喫茶店

健太と由佳が話している。

由佳「そうでしたか、でも、治ってよかったですね」

健太「ところがね、なんか寂しいんだよ。おできが消えてから、生活にハリがなくなってしまって。あんなに本音をズバズバ言う存在がなくなると、なんだか俺、もぬけの殻みたい。おできがあると、うるさいけど、なくなると、寂しくなるって、人間って、勝手なもんだ」

 

○健太自宅・朝

   顔を洗って、手の甲を見ると人面おできらしきものができている。
 
コメント
 
最後は由佳が「私が分身になってあげる」と終わったほうがいい。

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