田辺優斗 15 北山中学校3年生
杉野航一 15 杉野の同級生(中3)
宮部真治 55 田辺の担任(国語担当)
杉野綾子 41 杉野の母
星野亮二 50 同校教師(世界史)
松田竜司 43 同校教師(英語)
生徒達
○北山中学校・職員室前・廊下
実力考査成績優秀者名(十名)が掲示されている。一位は田辺優斗(アップ)
生徒A「また田辺がトップだ」
生徒B「あいつ、中一から三年間ずっとトップだ」
生徒C「家で猛勉強してるんだろ」
生徒B「頭が違うんだ」
生徒A「そう、頭だよ」
女子生徒達が掲示を見る
女子生徒1「きゃー、田辺さんよ。また」
女子生徒2「すごーい」
生徒A「なんでぇ、勉強できりゃ、すごいんか」
女子生徒1「あんたとは大違いよ」
女子生徒2「イケメンだし」
女子生徒3「背が高いし」
○教室
星野が世界史の授業をしている。
星野「カエサルは『賽は投げられた』と言ってルビコン川を渡った。ルビコン川を渡るとはどういうことか。分かる人? いないのか」
田辺、手を挙げ、指名されて、
田辺「いかなる将軍も軍隊を連れて渡ることは禁じられていました。ローマに対する反乱とみなされたからです」
星野「そう、その通り、さすが田辺だな」
○職員室
昼休み、星野と松田が話している。
星野「田辺はたいしたもんだよ。こちらが説明しようとすること全部知ってるんだ」
松田「田辺ですか。昨日の英語の授業で私、立往生しましてね」
星野「えっ?」
松田「田辺、ダブリュコーテーションマークについて質問しましてね。答えられなかったんですよ」
星野「そうですか、他人ごとじゃないですな」
○校舎正面
時計、午前8時。生徒登校風景
○学校・応接室
杉野と綾子が宮部と話をしている。
宮部「一、二週間もすれば友達もできますよ。ただ、勉強は頑張ってもらわないと」
綾子「はあ、田舎の学校やったから」
宮部「養老の中学とこの学校では、進路が違いますから追いつくのは大変かもしれませ
んがね。(航一に)分からないことがあったら先生なりクラスメートに聞けばいいよ」
航一「はい」
始業のチャイムが鳴る。
宮部、立ち上がる。杉野と綾子も立つ。
綾子「よろしくお願いします」
○教室
宮部が教室に入る。後ろから杉野。
田辺「起立! 礼!」
生徒は起立して礼をする。
宮部「諸君、今日からこの学校に転校してきた杉野航一君だ、みんな仲良くしてやってくれたまえ」
宮部、黒板に「杉野航一」と書く。
宮部「じゃ、一言」
杉野「岐阜県の養老から転校してきました杉野航一です。よろしくお願いします」
宮部「座席は、あの机ね」
杉野「はい」
杉野は机に座る。すぐ隣が田辺
○教室・昼休み
ST 三週間後
田辺が杉野に数学を教えている。
田辺「これは二次方程式の問題でね。縦の長さは14−2Xで表せるね。それで……」
○教室
生徒は試験問題に取り組んでいる
教室の掲示板に「中間考査時間割(十月二十日~二十四日)」掲示。
チャイムが鳴る
宮部「止め。後ろから答案を集めて」
最後列の生徒、答案を集める。
○職員室前・廊下
定期考査成績優秀者名(十名)の掲示。
トップは田辺(アップ)
○学校・教室・放課後
田辺と杉野が話している。
田辺「どうだった? 中間考査?」
杉野「いや、あまり良くないよ」
田辺「何番?」
杉野「八十七番」
田辺「そうか、真ん中以上だ。田舎から転校してきて、その成績ならいいよ」
杉野「田辺のおかげだよ」
田辺「いや、お前が頑張ったからだよ」
○学校・階段・放課後
杉野が階段を踏み外し階段を転落。
○学校正面玄関
救急車に杉野が搬入される。
○病院
杉田がベッドに寝て、足にギブスをつけ天井からつっている。傍らに田辺。
杉野「すまんなぁ、いつも」
田辺「これが今日の授業で、これがプリント」
田辺はノートとプリントを渡す。
杉野「英語、分からんとこあるんだけど」
田辺「どこ?」
杉野「この英文、どういう意味?」
○学校・教室
星野が世界史のプリントを配る。
田辺「先生、もう一枚ください。杉野の」
星野「あ、そうか」
○杉野家・航一の部屋
ST 一か月後
松葉づえが壁に立てかけてある。
航一が椅子に座って田辺と話している。
田辺「黒板中にチャボ、チャボて書いてあったんだ。それでさ、チャボ先生、かんかんに怒ってね、誰だ!落書きしたのってね」
杉野「面白い!」
田辺「で、チャボね、怒って今日は授業しないって言って帰っちゃったよ」
杉野「で、授業なし?」
田辺「いや、西村と柳が謝りに行ってね」
綾子、紅茶を持って部屋に入ってくる。
綾子「いつもすみませんね。来週から学校に行ってもいいんですって、でも、杖ついてよ」
田辺「そうですか」
杉野「来年一月中ごろまで杖がいるって」
田辺「そうか、あ、今日のプリント」
杉野「ありがと」
○職員室
宮部と星野が話している。
宮部「田辺って勉強もできるが、人間もできてるよ」
星野「ああ、杉野の面倒よく見てるってね」
○教室
生徒、試験問題に取り組んでいる。
黒板右下に十二月八日の日付と日直名。
掲示板に「二学期期末考査時間割表」
○教室
宮部、順に生徒に通知表を渡している。
宮部「次、杉野」
杖をついた杉野は通知表をもらって中をのぞく。田辺が杉野に近づいて、
田辺「何番?」
杉野、通知表を見せる。七十七番(アップ).
杉野「田辺、一番?」
田辺「勿論」
○学校・正面玄関
杉野が車から松葉杖をついて降りる。田辺が待っている。
綾子「すみませんね、田辺さん」
田辺「いいえ。(杉野に)じゃ、行こうか」
○教室
ST 翌年一月十二日
生徒は試験に取り組んでいる。
掲示板に「実力考査時間割」
○職員室前・廊下
「実力考査成績優秀者名」掲示。
一位は杉野、二位が田辺(アップ)
生徒達、掲示を見ている
生徒1「田辺、二位?」
生徒2「杉野って、転校してきた奴か」
生徒3「そう、あいつ、田辺よりできるんか」生徒1「田辺、いいざまだ」
女子生徒1「杉野って誰?」
女子生徒2「田辺君といつも一緒にいる子よ」
○校舎・階段・放課後
杉野が松葉杖をついて、階段を降りようとしている。付近に誰もいない。
田辺、杉野の後ろにそっと近寄り、背中を押す。杉野、階段を転げ落ちる。
○学校正面玄関
杉野が救急車に搬入され、サイレンを鳴らして消えていく。見送る先生、生徒、田辺。
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