謎の一時間四十分
陽子、電話に出る
権藤啓二 49 沖縄県警捜査一課刑事
北里隼人 50 同鑑識課検死官
若山博人 41 同検死官助手
畑中栄一 34 会社員
畑中陽子 29 栄一の妻
山口理恵子 29 陽子の友達
刑事三人
○沖縄那覇空港レストラン
ST 二〇〇五年、五月
テーブルを挟んで畑中と妻の陽子。
畑中「じゃあ、悪いけど、先に帰るよ」
陽子「仕方ないわね」
畑中、立ち上がりかかって、
畑中「あ、忘れてた。貧血の薬持って来てたんだ。これ飲むといいよ」
陽子「薬?」
畑中「ああ、貧血によく効く薬だよ」
陽子「そうなの?」
畑中「いま飲んだら?」
陽子「ええ」
陽子、瓶からカプセルを出して服用。
陽子の携帯に電話。
陽子、電話に出る
陽子「理恵ちゃん? 着いたの? 良かった。今、風月ってレストラン。そう。じゃ、待ってるね。(畑中に向かって)、理恵子から、今着いたって」
畑中「そうか、じゃあ、二人で沖縄旅行楽しむんだな」
陽子「ええ」
レストランの窓から飛行機の離発着が見える。
レストランに理恵子が入ってきて畑中夫妻のテーブルに来る。
理恵子「ごめんなさい遅れて」
陽子「いえ、こちら主人」
理恵子「山口です」
畑中「畑中です。陽子をよろしくお願いします。私は、急用で東京に帰りますので」
理恵子「そうですってね」
陽子「あなた、もう時間よ」
畑中「じゃ」
○首里城
見物する陽子と理恵子
○首里城・喫茶店
テーブルを挟んで陽子と理恵子
理恵子「陽子、どうしたの。気分悪いの?」
陽子「ええ、ごめんね、身体が痺れるのよ。おなかも……」
陽子、額の汗をぬぐい、立とうとして嘔吐する。痙攣を起こして呼吸困難。
○道路
パトカーに先導され救急車が走る。
○琉球病院・救急室
理恵子、泣き崩れる。
理恵子「陽子、どうして死んじゃうのよ!」
○沖縄県警・鑑識課・検死室
北里が机上の「死亡診断書」を見つめている。
脇に権藤が立っている。
権藤「死因はなんですか」
北里「それが、実はわからないんです。外傷もないし、胃にも異物はないし。死体があまりにもきれいなのが不思議なんですよ。異常な死に方です」
権藤「異常って、他殺ですか」
北里「いや、何とも言えません。診断書には心筋梗塞と書いておきますが」
○沖縄県警・捜査第一課
権藤が三人の刑事と会議。
刑事1「課長、畑中は妻に一億五千万円も保険をかけてました。それに、妻を亡くしたのはこれで三人目です。前の二人も五千万ずつ保険に入ってました」
刑事2「それから、畑中は陽子さんとは電撃結婚です。高級クラブで会ってから六日目で結婚してます」
刑事3「友達の山口によりますと、死ぬ前に発汗、腹痛、嘔吐、痺れがあったそうです」
権藤「そうか。これは他殺だ」
○沖縄県警
「畑中陽子殺人事件特別捜査本部」という看板。
○沖縄県警、鑑識課・研究室
北里が助手の若山とともに医学書数冊を机に積み、読み漁っている。。
北里「発汗、嘔吐、腹痛、麻痺か。そんな薬品はないな」
若山「ないですね。……先生、有毒植物では?」
北里「そうか、それがあったな」
北里と若山、書棚から別の医学書を取って読みだす。
若山「ありました。トリカブトです。症状は一致します。ここに」
北里、指摘されたページを読む。
北里「うむ、一致してる、しかし、トリカブトは即効性で服用してから三十分以内に死ぬとある。陽子が死んだのは畑中と別れて一時間四十分後だ」
○畑中の家・応接室
権藤が畑中と話している
畑中「あなた、私を疑ってるんでしょう」
権藤「いや、あまりにも不自然なことが多すぎますので」
畑中「何が不自然ですか」
権藤「畑中さん、あなた、五年間で三人も奥さんを亡くしていますね。全部心筋梗塞で」
畑中「三人は多いと言うんですか。それは、あなたが奥さんと死別してないからですよ。この年で一人暮らしは辛いですよ」
権藤「それから、畑中さん、莫大な保険金をかけていたそうじゃないですか」
畑中「かけてはいけないという法律でもあるのですか。で、私が保険金殺人をするとでも?。だいたい、陽子が死んだとき私は東京にいましたからね」
権藤「ところで、畑中さん、トリカブトという植物知ってますか」
畑中「知ってますよ。よく時代劇などに出てきますね。でも、あれは即効性ですよ」
権藤「よくご存知で」
畑中「時代劇見てれば分かりますよ」
○道路
権藤歩いている。
権藤(独り言)「必ず、尻尾を掴んでやる」
○鑑識課・研究室
権藤が北里と話している。
権藤「トリカブトの効果を遅らせる方法はないのですか」
北里「ないですね。二重、三重のカプセルに入れてもアコニチンの効力はせいぜい十分遅らせるぐらいで、一時間四十分も遅らせません」
権藤「そうすると、始めから振出しか」
○沖縄県警・捜査第一課
権藤が若手刑事と話している。
刑事1「課長、耳寄りな情報です」
権藤「何か掴んだか」
刑事1「畑中は別宅があって、窓から中を覗くと化学実験室のようで、フラスコとかビーカーが見えました」
権藤「実験室?」
刑事2「毒物の実験しているのでは」
刑事3「それから、畑中は三カ月ぐらい前、大量にフグを買って、別宅に届けさせたそうです」
権藤「フグ?」
○鑑識課・研究室
権藤が北里と話している。
権藤「畑中が大量にフグを買ってたそうです」
北里「フグ?」
権藤「フグの毒を使ったのでは」
北里「フグのテトロドキシンも即効性ですのでね」
権藤「そうですか」
北里「しかし、一度調べてみます」
○同・研究室
北里と若山助手が実験している。
若山「テトロドキシンは、唇や指先に痺れがきて呼吸困難になって死にますから、今回の死に方とは違います」
北里「うむ、じゃあ、なぜフグを買ったんだろう。フグとトリカブトね、フグとトリカ……。そうか、拮抗作用だ!」
若山「互いに効果を薄めあう?」
北里「そう。すぐ実験してみよう」
○畑中・別宅・玄関
権藤以下数名の刑事、別宅の玄関をたたく。畑中が扉を開ける。
畑中「何事ですか」
権藤「捜査令状だ。家宅捜査を行う」
刑事達、家の中に入って行く。
○畑中別宅・実験室
刑事、実験室の中を捜査し、実験用具、書類、パソコン等を段ボールに詰める。
○沖縄県警・科学捜査研室室
押収した段ボール箱が部屋の隅に山積。研究員達、実験用具類を調べている。
研究員の一人、顕微鏡を覗きながら、
研究員「出ました。テトロドキシンとアコニチンの反応」
○畑中宅
権藤、玄関ベルを押す。
畑中、扉を開ける。
権藤、逮捕状を突きつけ、
権藤「畑中陽子殺人容疑で逮捕する」
終
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