2016年2月6日土曜日

捨てられた答案 ドラマ脚本


捨てられた答案

 

 

川口真治 26 北川高校 英語教師

鬼頭源吾 60 同    物理教師

鬼頭花代 57 鬼頭の妻

小林順一 55 北川高校 教頭

伊藤浩二 53 教務部長

五島光一 49 総務部長

森山 勝 50 校務員

秀    17 高2生徒

誠    17 高2生徒

綾    17 高2生徒

 

北川高等学校 教室

   生徒、受験中。鬼頭が試験監督。

黒板に「平成二十年七月九日(金)」

   チャイムが鳴る。

鬼頭「止め」

   最後列の生徒が答案を順に前に集める。鬼頭、枚数を数える。

 

○職員室

   鬼頭、職員室に入る。数人の先生、入り口近くの机で答案を綴じている。鬼頭は答案の数を二回数え、束を綴じる。そばで、川口が見ている。

川口「先生、答案、二回も数えるんですか」

鬼頭「ああ、万が一ってことがあるからね」

川口「わたしなんか、教室で一回だけです」

鬼頭「三回数えないと、気持ち悪くてね」

 

○小林宅・夜

   置時計、午後九時。

電話が鳴って、小林が受話器を取る。

小林「はい、小林です」

花代「あ、先生。わたし鬼頭の妻です。いつも主人がお世話になっています。あの、今日は職員会議が長かったのですか。実は、まだ主人が帰って来てないのですが」

小林「いえ、今日は、会議はなかったですが」

花代「そうですか。どうしたんでしょう。いつも七時頃帰ってくるのに」

 

○職員室・朝

   壁時計、八時十五分。黒板に「十二月十四日(水)」の日付。電話が鳴り、小林が出る。

小林「北川高等学校です」

花代「わたし、鬼頭ですが、主人、出勤しておりますか」

小林「鬼頭さん? 小林です。きのう帰られなかったんですか」

花代「はい」

小林「ええっ、そうですか。朝礼で訊いてみます。何か分かりましたら連絡します」

   小林は黒板の欠勤欄に「鬼頭」と書く。

   教員、授業の準備などしている。

小林「職員朝礼を始めます」

   教員全員立ち上がる。

伊藤「教務からですが、定期考査の点数の打ち込みは十六日までです」

五島「総務ですが、ダストシュートの使用は今月末までです。今後のごみ扱いについては追って連絡します」

小林「他に連絡ありませんか。なければ最後に。鬼頭先生が昨晩から行方不明のようです。どなたか心当たりの方はいませんか」

   

○教室

   昼休み風景。

チャイムが鳴る。

   

○教室

   川口、答案を返し、解説に入る。

   窓から校庭の体育の授業風景など。 

川口「では、採点間違いのある人」

   生徒四、五人教卓へ来る。

誠 「先生、十点違います」

川口「すまん、すまん」

   川口、答案を訂正して、閻魔帳を広げ、驚いて立ち上がる。

川口「点数を閻魔帳に書くのを忘れた。全員回収する」

   生徒は文句を言って答案を提出する。

川口「残り時間は、自習にする」

川口、点数を閻魔帳に記入する。

最前列の生徒が川口に話しかける。

綾 「先生、鬼頭先生も点書かずに答案返しましたよ。夜電話がかかってきて、明日答案持ってくるようにって言われて」

川口「へーえ、あの几帳面な鬼頭先生が?」

 

○職員室・朝

   黒板「十二月十五日(木)欠勤 鬼頭」

   職員朝礼をしている。

小林「最後に、鬼頭先生の件ですが、今日、二時ごろ、警察が学校に来ます。教務部長と私が応対しますが、職員室に入って来られるかもしれません」

   始業チャイムが鳴る。

 

○職員室

   時計、二時二十分。警官二人、小林と伊藤に案内され、職員室の鬼頭の机のところへ来る。

小林「こちらが鬼頭先生の机です」

警官1「きれいに片付いてますね」

伊藤「はあ、何しろ几帳面な先生で」

警官2「机を開けてもよろしいか」

小林「はあ」

   警官2、机を順に開けて、中を見る。

   閻魔帳が見える。

 

○職員室・朝

   黒板「七月十六日(金)欠勤 鬼頭」

   川口が隣の五島と話している。

川口「鬼頭先生、今日で三日目ですね。どうしたんでしょう。突然消えるなんて」

五島「先生、どこかで事故でもあったのかな」

川口「事故じゃなくて、事件に巻き込まれたとか」

始業チャイムが鳴る。

 

○職員室

伊藤が川口のところへ来る。

伊藤「先生、申し訳ないけど、鬼頭先生の物理の成績、打ち込んでもらえませんか」

川口「いいですが、成績分かりますか」

伊藤「ここに。先生の机から拝借しました」

   伊藤は鬼頭の閻魔帳を開けて示す。

 

○教務室

   川口、コンピューターに成績を打ち込んでいる。

川口(独り言)「あれ? 秀の成績、書いてない。あいつ休んだのか。訊いてみよう」

 

○職員室

   川口が秀と話している。

川口「お前、物理の試験受けてるだろ。何点だった」

秀 「えっ、先生に言うんですか」

川口「鬼頭先生、お休みで、私が代わりに成績、打ち込んでるんだ。お前の成績だけ空欄でね」

秀 「鬼頭先生に言いました」

川口「でも、書いてないんだよ。そうそう、鬼頭先生、答案を全部回収したそうだが、お前、答案、出したんだろ?」

川口「……」

秀 「鬼頭先生に言ったけど、答案、捨てました」

川口「えっ。学校でか」

秀 「はい」

川口「そうか、でも点数、覚えてるだろう」

秀 「十二点です」

川口「そうか」

 

○教務室

   コンピュータに点数を打ち込む川口。   打ち込みが終り、立ち上がって、

川口「そうか! 分った!」

   川口、急いで教務室を出る。

 

○廊下

   走る川口

 

○校舎外側・ダストシュートゴミ集積室前

   川口が走ってきて、扉のカンヌキを開ける。鬼頭が倒れている。

川口「鬼頭先生!」

 

○道路

   救急車が走っている

 

○病院・鬼頭の病室

   川口が鬼頭と話している。

鬼頭「私があそこにいるってこと、よくわかったね」

川口「先生、几帳面だから、きっと秀の捨てた答案、探しに行かれたんだと思ったんです」

鬼頭「そうなんだ、あの日、秀が答案を捨てたというもんだから、確認しようとしてね」

 

○ゴミ集積室中(回想)

懐中電灯で照らしながら、鬼頭、ゴミの山を一つずつ丹念に調べている。扉が五センチほど半開き。

 

○ゴミ集積室前(回想)

   校務員の森山が通りかかり、集積室の扉が半開きになっているのを見て、扉を閉めて、カンヌキを掛ける。

 

○ゴミ集積室(回想)

   鬼頭、扉が閉まったことに気が付かない。秀の答案を探している。

鬼頭「あった。十二点だ」(回想終り)

 

○病院・病室

   川口が鬼頭と話している。 

鬼頭「それで、出ようとしたら、鍵がかかってるんだ。叩こうが、わめこうが、全然反応がなくてね」    

川口「そうでしたか」

鬼頭「おかげで助かったよ。几帳面も、考えもんだな」

川口「いや、私みたいなずぼらも、考えもんです」

鬼頭「じゃ、足して二で割るか」

              終

 

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