登場人物
フランク・オコーナー 30 会社員
ソフィア・オコーナー 35 フランクの妻
ジャック・ミルホード 40 古道具屋
ラルフ・スクイアーズ 46 詐欺師
スティーブ・ニールセン 50 鑑定兼競売人
○古道具屋・店内
ST ロサンジェルス
フランク、陳列品の山高帽を見ている。
フランク「これ、チャップリンの帽子です?」
ジャック「その通りです。お目が高いですね」
フランク「どうして、この帽子があるんです」
ジャック「それは、チャップリン・スタジオが閉鎖した時、小道具を処分したんです」
フランク「処分というと、捨てたとか?」
ジャック「いえ、従業員で、欲しい人が籤を引いて決めたそうですよ」
フランク「ちょっと、見せてもらってもいいかい。私はチャップリンの大フアンでね」
ジャックはケースを開け、帽子を渡す。
フランク「うむ、なんかニセモン臭いね」
ジャック「帽子の内側にチャールズ・チャップリン・スタジオのラベルがついてます」
フランク、ラベルを確かめる。
フランク「そうか本物なんだ。これ、いくら」
ジャック「一千ドルです」
フランク「ええっ、そんなに」
ジャック「何チャップリンの帽子ですから」
フランク「うーん、明日また来るから、売らないでおくれ」
ジャック「お客さん、失礼ですが、今お手元にどれほどお持ちですか」
フランク「五百ドルぐらい」
ジャック「チャップリンのフアンでいらっしゃいますので、五百ドルでようございます」
フランク「そうかい。じゃ、買った」
ジャック、帽子を渡しながら、
ジャック「お客様、またいい掘り出し物がありましたら、お知らせしますので、ご住所と電話番号を教えていただきませんか」
○フランクの家・夜
テーブルを挟み、フランクとソフィア。
ソフィア「インチキに決まってるじゃない」
フランク「本物だよ。ラベルがついてるよ」
ソフィア「そのラベルも、偽物よ。どこにそんな金があったの」
フランク「そうそう、言い忘れたけど、俺、来月から課長に昇進するんだ」
ソフィア「そうなの、それを先に言わなきゃ」
○フランクの家・朝
ソフィア「じゃあ、出かけるからね」
フランク「ああ、お義母さんによろしく」
ソフィア、家をでる。
玄関のベルが鳴って、フランクが出る。
ラルフ「あ、私、ラルフ・スクイアーズと申 します。フランク様でいらっしゃいますか」
ラルフ、名刺を渡す。鑑定士の肩書き。
フランク「鑑定士?」
ラルフ「古道具屋さんから聞きましたがチャップリンの帽子を買われたそうで」
フランク「ああ、それで?」
ラルフ「帽子を買いたいという人がいまして」
フランク「いや、あれは売らないよ」
ラルフ「でも、二千ドルはお支払いしますが」
フランク「二千ドル?」
ラルフ「いや、鑑定して本物ならの話ですが」
帽子を持ってくる。ラルフ、鑑定する。
ラルフ「これは本物です。今買い手の方に電話してみますが。たぶん三千ドルといっても買うでしょう」
フランク「じゃあ三千ドルなら売りましょう」
ラルフ「仲介料を一割払っていただけますか」
フランク「仲介料? そうか。払うよ」
ラルフ、ジャックに電話する。
ラルフ「チャップリン記念館ですか、館長と話したいんですが。会長さん? 私、ラルフです。帽子の件ですが本物です。買っていただけますか。三千ドルなら売ってもいいと仰ってますが。電話を替わるんですか」
ラルフ「直接話たいそうです」
ラルフ、携帯電話をフランクに渡す。
フランク「もしもし」
ジャック「私、チャップリン記念館館長のエドワードと申しますが。帽子を二千五百ドルで譲って頂けませんか」
フランク「いや、三千ドルでないと」
ジャック「そうですか、三千で買いましょう」
フランク、携帯をラルフに渡す。
ラルフ「分かりました。はい。フランクさん、今からこちらに来るそうです。よろしいか」
フランク「いいですよ」
ラフル「じゃあ、来てください」
ラルフ、携帯を切る。
ラルフ「ところで仲介料を払っていただけますか。三千ドルですから三百ドルですが」
フランク「今払うんですか」
ラルフ「はい。慣例でして」
フランク、支払う。
暫くしてラルフの電話が鳴る
ラルフ「えっ、何? どこの病院だ。分かった、すぐ行く。申し訳ないですが、女房が車に当てられ病院に運ばれました。エドワードさんは、まもなく来ますから、これで失礼させていただきたいんですが」
フランク「ええ、すぐ行ってあげてください」
ラルフ、家を去る。置時計が十時を示す。フランク、テレビを見る。置時計十一時。フランク、ラルフに電話する。
電話の声「その番号は使われておりません」
○フランクの家・夜
ソフィアが帰る
ソフィア「あ元気ないわね。何かあったの」
フランク「いや、何も……」
○自動車工場
社長が従業員に話している。
社長「と言う次第で、我が社は倒産に追い込まれました。私の経営の不手際で……」
○フランクの家・夜
ソフィア「明日から、どうして食べていくの? そうそう、あなた、あの帽子、売ったら」
フランク「仕方ない。今から行ってくるよ」
○古道具屋
ジャック「お客さん、ありゃ偽もんですよ。本物がこんなとこに転がってるわけないでしょう。まあ、二十ドルですな」
フランク「二十ドル? そんな馬鹿な」
ジャック「嫌なら売らなければいいでしょう」
フランク「もういい!」
フランク、店を出る。
○フランクの家
ソフィア「だから、言ったでしょ」
フランク「わかったよ」
フランク、テレビをつける。
古物の競売をしている番組が映る
競売人「チャップリンのステッキです。四万ドルからいきます。はい、そちらの方、四万五千、はい、四万五千、四万五千、はい、五万、五万、あとは? 五万です、はい、では五万五千、はい、他に? はい、六万ですね、六万、六万、六万、落ちますよ。はい、では六万です。ところで、皆さん、ステッキが六万ならトレードマークの帽子なら七、八万はするでしょう。どなたかおもちのかたはいませんか。CCSのラベル、と帽子の帯の裏にベルギー製と書いてあるんですがね。では、次の品に参ります」
フランク、急いで帽子の帯裏を見る。「ベルギー製」と書いてある。アップ。
フランク「本物だ、八万ドルだ」
ソフィア「また、馬鹿なことを言って」
フランク「いや、今度こそ本物だ。ホントの掘り出し物だ。競売会社に電話しなきゃ」
ソフィア「今日は日曜日よ、明日電話したら」
○フランクの家・朝
フランク、電話している。
フランク「帽子を競売に出したいんですが」
スティーブ「ある人がすでに帽子を持ってきましてね。本物なんです。ですから、あなたの帽子はニセモンですよ」
○職業安定所・待合室
ST 一ヶ月後
フランク新聞を読んでいる。一つの記事に釘付けになる。記事には「チャップリンの帽子が競売で八万五千ドルで売れたが、チャップリンの山高帽は二つあることがチャップリン・スタジオの元従業員によって明らかにされた。競売会社は競売に出したいと申し出た人を探している」
フランク、走り出す。
○フランクの家
フランク「では、行ってくるよ」
ソフィア「また誤魔化されないでよ」
フランク「大丈夫」
○電車の中
フランク、帽子を持って座っている。
○駅・プラットホーム
フランク、降車する。
○大きな橋の真ん中辺り
橋の向こうに競売会社の看板。
フランク、帽子をかぶり橋を歩いている。風が吹いて帽子が川に飛ばされる。
○フランクの家
ソフィアが歌を歌いながらテーブルにシャンペンボトルとグラスを二個おいている。
終
競売師が競売中に、これこれの帽子をどなたか持っていませんか」というようなことは言わない
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