2014年11月12日水曜日

からまれた紐



  

斉藤綾香 29 XX株式会社、社員

後藤浩介 22 派遣会社社員

加藤明菜 27 綾香の同僚

佐藤千尋 30 綾香の同僚

西野大輔 33 弁護士 

 

 

○綾香のマンション・ベッドルーム

綾香と西野が話している。

西野「で、明日の晩、叔母の通夜でね。青森に飛ばなきゃならないんだ」

綾香「ええっ、じゃ、しばらく会えないの。お葬式が終わったら、すぐ帰ってきてね」

西野「そりゃ、勿論」

綾香「いい機会だから、私たちのことご両親に話してみてよ」

西野「そうだな、一段落したら話すよ」

綾香「反対されないでしょうね」

西野「親父は、好きな人ができたら誰でも連れておいでと言ってるから」

綾香「じゃ、秋には式を挙げられるわね」

 

○綾香のマンション・夜

ST「三日後」

   綾香が携帯で着信を確かめている。

綾香(M)「今日も来てない」

 

○XX株式会社・営業課

   ST「五日後」

   綾香が携帯で着信を確かめている。

綾香(M)「今日も……」

 

○綾香のマンション・夜

   ST「二週間後」

   メールを打つ綾香。画面アップ

綾香の声「大輔さん。どうしたの。病気なの? 返事下さいよ」

 

○XX株式会社・廊下

   ST「一か月後」

   綾香と明菜が立ち話。そばで、浩介が立ち聞きしている。

明菜「綾香、聞いた? 西野さん、結婚したって。あなた付き合ってたでしょ」

綾香「ええっ、どういうこと?」

明菜「わたしの友達が披露宴に招待されててね、新郎は西野さんだったって」

   明菜が去る。綾香、廊下の隅で泣く。

   浩介、偶然通りかかったように、

浩介「どうしました? 泣いてるんすか」

綾香「びっくりするじゃない。泣いてないわよ。(涙をぬぐう)友達が亡くなって、落ち込んでるだけよ」

浩介「そうすか、西野さんが泣くと、美しい顔が、ますます美しくなりますね」

綾香「冗談止めてよ」

浩介「ホントですよ。魅力的で」

   立ち去る浩介の背中を綾香見つめる。

 

○XX株式会社・廊下

   ST「翌日」

   浩介が立っている。綾香が歩いてくる。

浩介「西野さん、元気ないすよ。まだ落ち込んでるんですか」

綾香「あなたに、関係ないでしょ」

浩介「済みません。つい気になっちゃって。でも、親友、亡くすって、寂しいっすね」

綾香「ええ……」

浩介「よかったら、元気づけに、晩飯一緒に食べませんか、おごりますよ」

綾香「生意気言って。年下のくせに」

浩介「でも、胸が寂しさで一杯でしょ」

綾香「そりゃ、まあ」

浩介「僕でよろしかったら、寂しさを僕にぶちまけてください」

綾香「あなたのお世話になるほど、落ち込んでないわよ。さ、仕事、仕事」

   綾香、立ち去っていく浩介を見つめる。

綾香(M)「いい男……」

 

○XX株式会社・会社前・夕方

   浩介は玄関に立って、人を待っている様子。綾香が現れる。

浩介「西野さん、お帰りですか」

綾香「何してるの? ひょっとして……」

浩介「当り。西野さんを待ってました。晩飯、一緒に食べませんか。おごらせてください」

綾香「もう、隅に置けない人ね」

浩介「でも、お忙しければ、また今度……」

綾香「いいわよ、後藤君には、かなわないわね。おごらせてあげる」

 

○レストラン

   綾子と浩介が食事している。

浩介「そうでしたか。その西野っていう奴、ひどいですね。一発殴ってやりたい」

綾香「そうなのよ、わかる? 私の気持ち」

浩介「女性の気持ちは分かりませんが、こう見えて、僕も、実は……」

綾香「どうしたのよ」

浩介「あの、僕も、最近失恋したんです。二年間付き合ってた女の子にふられて」

綾香「そうなの」

浩介「でも、西野さんのような美人で個性的な人とこうやって食事ができて嬉しいです」

綾香「そう」

浩介「あの、よろしければ、また一緒に食事してください」

綾香「時間があればね」

   食事を終り、ビルを浩介が取る。

綾香「わたしが払うわよ」

浩介「いや、僕がさそったし、男だから」

綾香「じゃ、今度わたしがおごってあげるね」

 

○繁華街・夜

   綾香と浩介がクリスマスの飾りつけをした街を歩いている。ジングルベル。

綾香「酔っ払っちゃった」

浩介「じゃ、タクシーで家まで送りますよ」

綾香「近いから、タクシー呼ばなくても」

浩介「いいえ、今日は楽しかったのでお礼に。タクシー代ぐらい払いますよ」

   タクシーが綾香のマンションの前に着き、綾香は降りて、タクシーは去る。綾香、タクシーをじっと見送る。

 

○綾香のマンション・夕方

   カレンダー「十二月二十四日」アップ。綾香、電話している

綾香「浩介、二人で、クリスマスパーティーやろうよ。なんだか、今日、とてもさみしいのよ。家に来ない?」

浩介「えっ、行っていいんすか」

綾香「いいわよ、すぐいらっしゃい。でも変な真似しないでね」

浩介「僕はそんな男じゃありません」

 

○綾香のマンション・ダイニングルーム

   飾り付けたテーブルにシャンペンなど。蝋燭に火をつける綾香。それを見る浩介。綾香がグラスにワインを注ぐ。

綾香「じゃあ、カンパイ!」

 

○綾香のマンション・ベッドルーム・朝

   綾香と浩介ベッドで寝ている。

綾香「浩介、ここに引っ越してきていいよ。安月給で家賃払うの大変でしょ」

浩介「ありがたいけど、ご迷惑じゃ」

綾香「何言ってるの。このマンション、一人で住んでも二人で住んでも管理費、同じよ」

 

○綾香のマンション

   ST「二か月後」

綾香「どうして、会社、辞めちゃったのよ?」

浩介「だって、あの会社、俺に合わねーよ」

綾香「じゃ、合う仕事探したら」

浩介「だから毎日ハローワーク行ってるって」

綾香「どうだか、ごろごろしてて」

浩介「綾香、買ってほしいものあるんだけど」

綾香「なによ、今度は」

浩介「アイフォーン・シックス」

綾香「今のはダメなの?」

浩介「画面小さいし、古いし」

綾香「いくらなの?」

浩介「とりあえず、一万円五千円」

綾香「そんなに? しょうがないわね」

 

○綾香のマンション

   ST「半年後」

   浩介が、頭を床につけて泣き声で、

浩介「田舎のお袋が入院したんだ。頼むからお金、貸してよ。腎炎なんだ」

綾香「ほんと? その手には乗らないわよ」

浩介「ほんとだよ。電話してもいいよ」

綾香「わたし、浩介の財布じゃないんだから」

浩介「だから、ちゃんと返すって」

綾香「あてになるもんですか」

浩介「ほんと、返すから。誓うよ」

綾香「で、いくらなの?」

浩介「十万だけでも都合つけてくれたら助かる。この通り」

   浩介、綾香を拝む。

綾香「しょうがないわね」

 

○XX株式会社・化粧室・鏡の前

   綾香と千尋が小声で話している。

千尋「綾香、同棲してるでしょ、浩介と」

綾香「何よ、急に」

千尋「あの子、危険よ、ひも男よ」

綾香「そんな」

千尋「根こそぎ持ってかれちゃうよ」

綾香「浩介、馬鹿だから、わたしが面倒見なきゃ、やってけないのよ」

千尋「知能犯よ。分かれた方がいいわよ」

綾香「そうね……。実はね、一か月前に、いやになっちゃって、追い出したんだけど、寂しくて、寂しくて、一週間で、また、一緒に住んでって、お願いしたのよ」

千尋「バッカねー。骨抜きになるわよ」

綾香「かもしれないけど、浩介のためなら、構わない」

千尋「あきれた」

   千尋、化粧室を出る。綾香、鏡に映る自分を見つめる。

 

                  終

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