2013年11月15日金曜日

閻魔大王になった釈迦


○×△年四月八日 

釈迦殿

先般、貴殿は地獄の罪人を極楽に拉致しようとされたが、その理由をお聞きしたい。

閻魔大王

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四月九日

閻魔大王殿

事前に了承を得なかったことをお詫び致しします。実は、罪人を一人地獄から救い出そうとしたのです。あの日、昼寝を終えて蓮池を散歩している時に地獄を覗いてみますと、血の池でカンダタという男がもがいていました。彼は生前、蜘蛛を助けたことがあります。私はその善行を思い出し、蜘蛛の糸を垂らして助けてやろうとしたのです。ところが彼が糸を登ってくる時、下を見ると多くの罪人があとから続いて登ってきました。カンダタは「この糸は俺のだ。お前たち、下りろ」と叫んだのです。私は彼のあさましさに落胆して糸を切ったのです。釈迦

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四月十三日

釈迦殿

事情が分かりました。今後は事前に断っていただきたい。

ところで、何故貴殿は蜘蛛の糸のような細い糸を垂らしたのですか。カンダタでなくとも誰しも糸が切れてしまうと不安になります。また、糸を登るのは相当体力が要ります。何故カンダタが糸を掴んだらそのまま引き上げてやらなかったのですか。更に、地獄には小さな善行をした罪人は一杯います。カンダタだけ助けるのは不公平です。貴殿こそ浅はかな事をしたのではないでしょうか。

次に、極楽では昼寝をして散歩をするというような悠長なことが出来るのですか。地獄にはそんな暇はありません。罪人の罪業確認、鬼の指導、血の池や針の山の管理、折檻道具の点検等、飯をゆっくり食う時間もありません。極楽と地獄と交替してもらいたいくらいです。閻魔大王

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四月十四日

閻魔大王殿

ご指摘ごもっともです。何故こんな馬鹿げた事を行ったのか考えました。原因は極楽の生活です。極楽は平和で、美しい調べが流れ、馥郁たる香りが漂い、悪人がいなくて、天女が舞っています。昼食を食べたら、昼寝をして散歩するぐらいしかすることがありません。お蔭で頭を使うことがなく、脳の血の巡りが悪くなり、明晰な判断が出来なくなるようです。その点、貴殿は忙しそうで羨ましい。一度閻魔大王になりたいものです。釈迦

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四月十七日

釈迦殿

このところエジプトやシリアを始め世界中で殺戮があり、三途の川を渡ってくる者が多すぎて対応に大わらわです。しかし、近日中には交代が出来そうです。閻魔大王

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五月五日

閻魔大王殿

交代して頂き感謝しています。閻魔大王になって毎日大忙しですが慣れてきました。今から地獄の釜の点検です。ではまた。釈迦

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五月六日

釈迦殿

極楽はのどかでいいですな。美女や美食に囲まれて極楽、極楽。このところ急に腹が出てきました。メタボかも。閻魔大王

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五月十一日

閻魔大王殿

多忙で返事が遅れました。閻魔大王の仕事は、やり甲斐があります。極楽よりもこちらの方がもっと極楽です。釈迦

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五月十五日

釈迦殿

極楽は悠長すぎて頭がボケてきました。明日にでも地獄に戻りたい。閻魔大王

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五月十八日

閻魔大王殿

交代はもう少し待って下さい。釈迦

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七月七日

釈迦殿

これで九回目の催促です。気が狂いそうです。早く交代してもらいたい。閻魔大王

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七月三十日

閻魔大王殿

先ほど、蜘蛛の糸が垂れてきました。断りもなく、変な真似は止めてもらいたい。釈迦

               (了)

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